シューベルト「美しき水車小屋の娘」 シュライアー(T) ラゴスニヒ(G)「水車小屋」はピアノもいいけれどギターはまた格別だ。
緑あふれる水車小屋の牧歌的イメージにどことなく合っていることに加えて、見た目でも歌手とギターとの素朴なたたずまいがよく似合う。この曲の演奏の大半はビアノによるものだし、普段聴いているときはそんなことをおもわないけれど、たまにギター版を聴くと実に合っているなあと感じるのだ。ビアノは器と音量の大きさもさることながら、見た目の高級感があるゆえ、下手をすれば歌手を食ってしまう威圧感があるように思える。
シュライアーとラゴスニヒの演奏は発売当初から評価の高いもので、いま聴いても色褪せないどころか「水車小屋」の録音の中で最高峰に位置するものだと思う。
シュライアーは澄みきった美声で、若者の甘くて苦い恋を歌い尽くす。歌というよりは、語りと言ったほうが近いかもしれない。片思いの女がつれない態度をとっても声を荒げることなく、淡々といっていいくらい抑えて語る。その控え目さが涙を誘うのだ。
ラゴスニヒの技術は高い。速いパッセージも楽々弾いている。ギターについても技術的なところは皆目わからないが、去年に生を聴いた時、鈴木大介がけっこうきつそうに弾いていたので、難しいのではないかと思っていたのだ。もっともこれはスタジオ録音であるからそのあたりは差し引くべきかもしれない。
ラゴスニヒの最大の聴かせどころは「涙の雨」。たっぷりとしたヴィブラートは、涙の雨が水面に落ちた波紋のよう。痺れるくらいに甘い。たまにはこういう甘さもいい。
シュライアーの歌唱の深みは「小川の子守歌」でピークに達する。しっとりと自然な抑揚のある歌いぶりは、全曲を締めくくるにふさわしい。ひとつひとつの言葉を実に丁寧に噛み砕いて歌い尽くしていて、なぜかドイツ語をわかったような気にさせられるのだ。
1980年、ドレスデンでの録音。
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