レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィル浅田次郎の「地下鉄に乗って」には、レトロな東京の味わいがある。
銀座線の車内のランプが点いたり消えたりしたのは、何年前までだっただろうか。30年ではきかないだろう。最初に乗った時の驚きを今もかすかに覚えている。2回目からは、別になんということはないのだ。あのカステラのような車体には、赤地に白い波線の丸の内線とともに高度経済成長の匂いがあるなあ。
物語のオチは、途中から勘づいた。親子の葛藤のお話よりむしろ、戦後の銀座の描写が印象に残る。
バーンスタインは1976年頃になると、ニューヨークを振ったものでもだいぶヘヴィーになってきているようだ。すでにバーンスタインは音楽監督を退いており、ブーレーズ時代の後期にあたる。合奏の精度は増してきたと言われているけれど、そう言われてみると精緻になったように聴こえなくもないかな。気のせいか。
ここでは50~60年代の明晰さは影をひそめ、そのかわり腰の重い粘りが増している。体重もふたまわりくらい増えたようだ。
全体的にオルガンの扱いがうまい。ときには通奏低音のようにじんわりと、ときにはプリマドンナのように派手に変幻して、存在感がある。音そのものに深みがある。
ラストはコシのあるティンパニと相俟って壮大に締めくくられる。興奮のルツボ。
レナード・レイヴァー(org)
1976年12月、ニューヨーク、マンハッタン・センターでの録音。
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