アンタル・ドラティ指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団嵐山光三郎の「東京旅行記」を読むとお腹がすく。
これは東京のいろいろな街を散策したレポート。街の景色や買い物や博物館見物もいいものだが、目当ての店やふらっと入った店で一杯やるのが散歩の醍醐味。
神保町のサーモンムニエル、湯島の湯豆腐、日比谷のハヤシライス、九段の寿司、根岸のメンチカツ、人形町のビーフシチュー、深川のウニ、たまらん。こんな散歩だったら毎週行ってもいいくらいだが、間違いなく太るだろうなあ。
神楽坂の章で、懐かしい記述があった。
「山田紙店の横のカレーショップの納豆カレー(750円)は、以前から食べようと思いつつ、今回も食べない。食べてないのに気になるカレーは、デキそうでデキなかった女との関係のようで、おそらく一生デキないだろう」。
昔、このカレー屋で3年バイトをしていた。夏休みには、毎日昼晩カレーを食っていたものだ。その頃はまだ納豆カレーなるものはなかったな。いろいろあったがみんな元気だろうか。
ドラティのマーラーは、1984年のライヴ。
1984年の演奏当時、ベルリン・ドイツ交響楽団はベルリン放送交響楽団(西側)という名称だった。この頃はFMにハマッていた時代で、なかでもこのオーケストラの放送はもっとも多かったように記憶する。ときに首席指揮者はシャイー。チャイコの5番やベートーヴェンの7番、「カルミナ・ブラーナ」やルプーとのシューマンは、カセットテープに納めてまだ取ってあるし、内容も覚えている。本当によく聴いていたし、楽しませてくれた。もしかしたら、ジンセイで一番多く聴いたオーケストラはここかもしれない。でも、ドラティの演奏は記憶にないんだなあ。マーラーの9番は好きな曲だし、大曲で目立つから、放送していればたぶん覚えているはずなのだ。だから、この演奏はFMで放送されなかったんじゃないかな。
あやふやな記憶は置いておいて、聴いてみましょう。2枚組なので比較的遅い部類にはいるのだろうという予想を裏切らず、ゆっくり目に進行する。遅いけれども、粘りは薄い。剛直で淡々とした感じ。ざらついた弦のしぶとい音とホルンの野太い咆哮、そしてあっけらかんと大きい鐘の音が1楽章では印象的。
2楽章は第2テーマの推進力がいい。弦にエッジが強く効いていて、キッチリとメリハリがついているあたりはドラティの真骨頂。
3楽章もややゆっくり目なテンポをとっており、腰が低い。クラリネットをはじめ木管が怪しく飛翔する。重厚なアンサンブルに破綻はない。
終楽章における、弦楽セクションの分厚さは圧巻。遅めのテンポは一貫していて手堅い。泣きはまったく入らないぶん、音そのものの重量感で勝負している感じ。質実剛健。この曲にそういうものを求めることはあまりないのだが、やられてみるとじゅうぶんいい。男くさい硬派のマーラーだ。
ベルリン・ドイツ響は安定している。技術的に突出しているとは言えないかもしれないが、バランスが絶妙。ライヴにおける堅実さは捨てがたいものがあるなあ。
1984年5月30日、ベルリン・フィルハーモニーでの録音。
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