井出よし江さんのピアノ・リサイタルに足を運びました(2019年6月16日、銀座、王子ホールにて)。
バッハ パルティータ2番
ブラームス 3つの間奏曲op.117
シューベルト ソナタ21番
彼女のピアノを聴くのは、一昨年以来2度目。ご自身がリサイタルを開くのが2年ぶりとのこと。前回はドイツ系の演目を楽しませてくれましたが、今回も上記のプログラムであり、いわゆり「王道」の献立をしっかりと味わわせてくれました。
バッハにおけるテクスチャの温かさ。そして、初夏の昼下がりを思わせるような、光彩が微温的に広がるブラームスも素晴らしかったけれど、圧巻はシューベルトでした。
冒頭の、悠揚迫らざるテンポとフレージングに涙を禁じ得なかった。全体を通して、類似的な反復に手こずっていた感触があるものの、それがかえって、ゴツゴツとした手触りの親密な佇まいを感じさせ、一興でした。
彼女は一貫して、ぬくもりのある響きを醸し出した。それはシューベルトという男の、疑いようがなく天才だけれども、優しさとともに同居する脆弱さを、柔らかに、かつ大胆に炙り出してやまなかった。
そんな演奏だったと思います。
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