エフゲニー・キーシンのピアノリサイタルに足を運びました(2018年11月14日、東京芸術劇場大ホール)。
キーシンの演奏を初めて聴いたのは、彼が15歳のとき。恐ろしいまでに切れ味あるテクニックを擁して降臨したブーニンが、ショパン・コンクールを制した直後くらいだったと記憶します。
当時FM放送で耳にした、キーシンによるショパンのソナタ3番は未だに印象に残っています。テンポと強弱を微妙に揺らせ、さらに左右の打鍵を僅かにずらせることによって、膨らみと抑揚を注意深くつけていた。それは心地よく、腑に落ちた。直線のブーニンに対し曲線のキーシン、なんてことを当時は考えていました。
それから今まで、彼のディスクはいくつか聴いたけれど、生を聴くのは初めて。曲目変更は残念でしたが、楽しみにしていました。
アンコールに弾いた「英雄ポロネーズ」は、前段に書いたソナタ3番を彷彿とさせるもの。ダイナミックで、かつしなやか。やはり時折、左右のタイミングをずらせて軽やかな味付けを施していました。胸が震えないではいられなかった。なんて素晴らしいピアノ!
前半はショパンの夜想曲から2曲と、シューマンのソナタ3番。後者は「オーケストラのない協奏曲」との副題がついている通り、とても音の多い曲。キーシンは類い稀な技巧をもって、全ての音に対して丁寧に対応し、激しいなかに幻想的な世界を表出することに成功していたと感じました。
後半はラフマニノフの前奏曲。厳しい、あるいはヒンヤリとした肌触りのする曲の数々。これらと対峙するキーシンの集中力は最大限に達していたように感じます。一音も揺るがせにしない真摯さ、堅牢な構築力、強い音でもひび割れないタッチの繊細さ、そして引き締まったフレージング。40分があっという間に過ぎ去りました。
昨晩の演奏を聴いて、キーシンは現代を代表するピアニストの一人であることを、改めて確信しました。
PR