フィルハーモニア管弦楽団は、過去に生で何度か聴いている。サロネンは聴いたことがないし、なかなか魅力的な音楽家だという印象はあるものの、積極的に聴こうという気にはならなかった。
そう、このコンサートに足を運んだのは、ヒラリー・ハーンのブラームスを聴きたかったからである。
ブラームスのヴァイオリン協奏曲を生で何度か聴いたが、いずれも女性のヴァイオリニストだった。また、昔いた会社の上司の娘さんは東京芸大でヴァイオリンを弾いていて、シベリウスのコンチェルトを弾いた映像を見せてもらったことがあり、それはなかなかいい演奏だった。彼女が弾きたいのが、ブラームスのコンチェルトだったという。
どうも、ブラームスは、女性に人気があるみたい。
この日の最初の演目は、シベリウスの「トゥネラの白鳥」。サロネンは指揮棒なしの采配。オーケストラは最初こそエンジンが暖まっていなかったものの、後半は重厚でかつひんやりとした響きを聴かせた。
2曲目がブラームス。
ハーンは銀色のドレスを纏い、背筋をピンと伸ばして堂々とあらわれる。自信ありありの表情だ。実際、彼女のヴァイオリンは見事だった。中音から高音にかけての、張り詰めたような音色の強さと、中庸なテンポのなかで細かく表情を変えて弾きこなすところがいい。ヴィブラートは全体に少なめで、明晰な音を紡ぎ出すことに余念がない。テクニックは完璧に近く、破綻は見受けられなかった。スタイルとしては、フランチェスカッティに近い気がする。
カデンツァはヨアヒム。ピアニシモがデリカシーたっぷり。手だれの職人が手を凝らしたケーキのよう。厳しいなかにもほのかが甘さがある。
2楽章のオーボエを、彼女が熱心に見つめていた。ああ、あのオーボエ奏者になりたい!
3楽章になって、オーケストラが気負い始めたため、ソロヴァイオリンをかき消そうになる場面があったが、ギリギリ大丈夫だったと思う。
アンコールは、バッハのパルティータから。ソロになると、ピアニシモの絶妙な塩梅が手に取れる。
ヒラリー・ハーンは女神である。
休憩をはさんで、「英雄」。
置かれたティンパニが前の2曲とは異なる、古めかしいものだったので、もしやピリオド奏法かと思ったが、それは杞憂だった。古い楽器を用いたのは、ティンパニとトランペットだけだったと思う。ふたつとも、いい効果をあげていた。
テンポはやや速め。2管編成であるが、ヴァイオリンは5プルト、コントラバスは8丁なので弦楽器群は手厚い。「英雄」という曲のある意味核心をついた編成だったのかもしれない。2楽章における弦の重厚さは、この編成でなければならなかったはず。
1楽章の最後のファンファーレは、1回目がトランペットが最後まで吹ききる、2回目はトランペットなし。輝かしさと、溜めぬいた力の放出との両方が味わえる、理想に近い演出であった。
3,4楽章もテンポは快速。気持ちのいいスピード。4楽章は速いなかにもさまざまな工夫が施されていて面白く、あっという間に終わってしまった。全体を通して、チェロとコントラバス、そしてフルートがとてもうまいように感じた。
名演なり。
アンコールは「悲しきワルツ」。デリケートな演奏。
幸せな時を過ごさせてもらった。
2015年3月7日、東京芸術劇場にて。
おでんとツイッターやってます!八甲田その19。
PR