セシル・ウーセ(Pf)ロバート・ホワイティング(松井みどり訳)の「野茂英雄」を読む。
近鉄からメジャー、そしてベネズエラのリーグから再びメジャーに復活して引退するまでの歩みが、思い入れたっぷりに綴られている。
野茂の活躍なしには、イチローや松井秀喜、松坂がメジャーで活躍することはあり得なかったというのは、正論だと思う。確かに、アメリカへの門戸を広く開いたことだけでも十分に賞賛に値するということを否定しないが、野茂の本当のスゴさは、プレーそのものにあるように思う。グラウンド上での生真面目な態度(プレー中は滅多に歯を見せることがなかった)、インタビュアーへの朴訥すぎる態度、自分が不利でも言い訳をしない姿勢、そして、なんといってもトルネードから繰り出される剛速球と信じられないくらいに落ちるフォーク。これらがすべて噛み合わさった、野茂英雄の全人格がたまらなく魅力的なのである。
メジャーでの通算成績は、123勝109敗、防御率4.24。決して突出したものではないかもしれない。けれども、思い出してみよう。オールスター戦で先発して2イニングを無失点に抑えたピッチング。空気が薄くボールがよく飛ぶためにノーヒットなどあり得ないといわれたクアーズ・フィールドでのノーヒット・ノーラン。晴天の霹靂だった2度目のノーヒット・ノーラン。そして、ロイヤルズの一員として登板して完膚なきまでに叩きのめされた最後の試合。
野茂にどれだけ夢を見させてもらったかわからない。そういう人がほかにもたくさんいることを、この本を読んで改めて思い知った。
ドイツ・シャルプラッテンは東独系の演奏家を多く取り上げているので、ウーセもそのあたりの出身なのかと思ったら、南フランスの出とのこと。ピレネー山脈の麓に近くに生まれた彼女は幼いころからピアノを始めて、5歳で最初のリサイタルを開いたという。この業界に少なくない神童のひとりである。その後、ロン・ティボー・コンクールで入賞をしたことを皮切りに、ジュネーヴ国際、ヴィオッティ国際、エリーザベト王妃国際、ブゾーニ国際、ヴァン・クライバーン国際と立て続けに入賞を重ねる。まさにコンクール荒らしの様相だが、世間に広く認められたのは、70年代半ばのロンドン公演かららしい。
そんな彼女のモーツァルトは、ピシッと背筋が伸びて、線の太いもの。いくぶん硬質な音でもって、ひとつひとつの音を几帳面にカッチリと弾いていて、少しも曖昧なところがない。こういうところは東独っぽい感じがしないでもない、というのはコジツケなのだけど、これを目隠しで聴いたら、フランス出身であることはもちろん、女性によるものだと当てることは相当難しいのじゃないかと思う。ひとことで言ってしまうと、これは硬派のモーツァルト。ピンクじゃないよ(古い)。
1973年4月、ドレスデン、ルカ教会での録音。
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野茂に似ているというのも相当ですが、トルネードの名付け親が身近におられるとはオドロキですネ。サスガです。ワタシはとうとう、生で野茂のピッチングを観ることはできませんでした。悔いが残ります。その反動で、出ている本や映像は片っ端から集めている始末です。
二度目のノーヒットを知ったのは、他の多くの偉業と同様、夜のスポーツ・ニュースを観たときです。あれにはホントに驚愕しました。忘れられません。うれしさは翌日までじわじわ続きました。翌日の新聞が、またいいのですよね。二度も三度もおいしい。そして一週間は余韻に浸っていました。
こんな体験をさせてくれたのは、今のところ野茂だけです。