ムソルグスキー「展覧会の絵」 レイフ・オヴェ・アンスネス(Pf)丸谷才一の「輝く日の宮」を数ヶ月かけてようやく読了。
「源氏物語」には「桐壺」と「帚木」の間に「輝く日の宮」の巻があったと主張する国文学者の、研究と恋愛をめぐる長編小説。源氏物語をモチーフにしているから、読んだことがないとわからないところがたくさんある。そのあたりはまあまあ流しながら読んでいったが、わからないなりにも妖しげな雰囲気を楽しむことができた。エロい描写が多かったからかもしれない。エロといっても露骨なものではなく、仄めかしが多い。作者はそのへん、インテリである。あたりまえか。
最終章に、主人公が復元した「輝く日の宮」を用意している。読解は難しかったが、『「ファニー・ヒル」と違ふ』平安時代のエロに思いを馳せた。
展覧会の絵という曲を知ったのは、ラベルが編曲したオーケストラ版でである。いま改めて思えば、というか改めなくたって、じつによくできている(なぜか上から目線)。それぞれの楽器の持ち味を生かした色彩感の素晴らしさはもちろんだし、曲と曲との繋ぎめが、滑らかで違和感がないところも、手練れの技を感じる。
下手をしたら、オリジナル版のことは、はるかかなたに追いやってしまっても気がつかないかもしれない。などと、不遜なことを考えながら、おもむろにアンスネスの演奏を聴く。
ほんわかとしたタッチを基調として、軽やかなテンポで進む。角のとれたまろやかな音色は、EMIの柔らかな録音と相俟っておいしい。激しいところにおいては重厚な音色がじんわりと広がり、すごい迫力である。ロシアとは異なる西欧の、洗練された匂いがほのかに発散されている。
アンスネスが「ウラディミール・ホロヴィッツの天才的な編曲は、この曲に対する私の見方を完全に変えました」と語っているように、彼はピアノ・ソロでラヴェルの編曲に匹敵するような多彩さとダイナミズムとを兼ね備えた演奏を目指していると思われる。それが可能なことを、改めて思い知らされたネ。
2008年7月、ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホールでの録音。
PR