マーラー 交響曲第9番 バーンスタイン指揮 イスラエル・フィル京極夏彦の「鉄鼠の檻」を読む。
箱根にある由緒のある宿で、僧侶の遺体が発見される。たまたまその宿に滞在していた雑誌記者たちがその不可解な死をめぐって事件の解明に乗り出す。その僧侶は山奥の寺の住職であることが判明するが解決は困難を極め、警察もお手上げ状態。そんなときに第2の殺人が起こる。
二段組みで800ページ近くある長編だが、飽きさせない。途中に挿入されている妖怪の挿絵も面白い。ことに、最後の100ページは痛快であり一気に読まさせられる。
古書店の店主であり陰陽師でもある京極堂の、知識に裏打ちされた推理が切れ味いい。
ちなみにこの「鉄鼠の檻」は、京極堂シリーズの4作目であるとのこと。順番を間違えた。1作目から読んでみたい。
バーンスタインのマーラー交響曲第9番を聴く。
私の知る限り、バーンスタインはこの曲を5回、正規録音で残している。
1965年 ニューヨーク・フィル
1971年 ウィーン・フィル
1979年 ベルリン・フィル
1985年 ロイヤル・コンセルトヘボウ管
1985年 イスラエル・フィル
このなかでウイーン・フィルとのものはまだ聴いていないのだが、今回取り上げるイスラエル・フィルとのものが、おそらく一番激しいと思われる。
私は1985年の9月8日に、NHKホールで同じコンビによるこのマーラーを聴いている。当該録音は、そのわずか2週間ばかり前に演奏されたものである。東京でのライヴの録音は公表されていないので、この録音はNHKホールで演奏されたものに一番近いものといっていいのだと考えられる。そういう意味でも価値はあるし、単独で聴いたってもちろんある意味で群を抜いた演奏であろう。
この演奏は、ひとことで言うと、バーンスタインのやりたい放題である。自在に変化するテンポ、濃厚な味つけ、思わぬパートの強調、そして(これは演奏には関係ないが)指揮台を踏みつける足音。
そのなかでも1楽章は比較的おとなしいかもしれない。ゆったりとしたテンポで粘っこく鳴らせているし、テンポもけっこういじっているが、そう違和感はない。ティンパニの強打はじつに効果的。
2楽章はとても活力に溢れている。切れば血が激しく迸るような熱気を孕んでいる。第1主題のなかで副声部のホルンやクラリネットを咆哮させるなんて、他の誰もやらないだろう。全体的に、木管楽器を強調している。その結果、音響がとても立体的になっている。NHKホールでもそうだったろうか、覚えていない。
3楽章の出だしでトランペットの短いファンファーレのあとに長い間をとるのはバーンスタインの専売特許だが、この演奏はさほど長くない。勢いが勝っているためか? ラストはアッチェレランドをかけるわブレーキをかけるわ、すごいことになっている。なんとも激しい。
激しいといえば一番激しいのは終楽章。とてもゆっくりとしたテンポで悠々と流れていくが、弦楽器群は常に悲鳴をあげている。それはあたかも、もがき苦しんで叫んでいるようだ。それはもちろんこの世のもののはずなんだけど、浮世離れした感覚を持たされる。
くだんの2度目のファゴットは、低弦と共に厳かに鳴らされる。この個所はカラヤンのライヴが凄いと思っているが、この演奏もそうとうに鬼気迫るものがある。
ラストは、掠れた声を抑えながらすすり泣くように、ゆっくりと消え入る。
バチ当たりな欲を言えば、録音が鮮明であればもっと良かった。イスラエル・フィルの弦の美しさを感じたかった。
1985年8月25日、テル・アヴィブ、ザ・マン・オーディトリアムでのライヴ録音。
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