宮崎学の「『自己啓発病』社会」を読む。
「抄訳だと、成功の秘訣を書いた成功ノウハウ本みたいに仕立てられているが、全訳を読めば、そうでないことがわかる。スマイルズにとっては『成功』が問題なのではなく『立志』が問題なのであり、『秘訣』ではなくて『精神』が語られているのだ」
これは、自己啓発本のありかたを批判するとともに、スマイルズの「自助論」の誤読についての問題を明らかにしようとした本。
出世や金もうけを目的とした自己啓発本は題名を見ればわかる。私はそれが目的で、さんざん読んだから(笑)。9割は毒にも薬にもならない。読み終わった途端に、内容を忘れる。だいたい、あたる。
スマイルズの「自助論」もパラパラと読んだことがあるが、いかにも出世のための人たらし的な匂いが感じられたので、途中でやめた。
だが本書によれば、竹内均訳のものは「スマイルズが本当に伝えようとしたことは、所々で割愛されており、単に『努力』を礼賛・奨励するだけの嫌味な本になっている」という。著者は抄訳と全訳を読み比べ、スマイルズの目的は「利他」であり「共存」であることを知る。
全訳は中村正直による「西国立志伝」が有名である。これは文語体であるが、最近はこの本の現代語訳も出ているよう。いつか、読んでみよう。
シャイー指揮コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏で、マーラーの交響曲6番を聴く。
この演奏、全体的にテンポはゆっくり目、おおらかななかにもディテイルをおろそかにしない。普段聴こえにくいクラリネットやホルンの音が聴こえるあたり、見通しが良い。と同時に、コンセルトヘボウの厚い響きが心地よい。
1楽章の行進曲は重厚にして切れ味よし。小太鼓が一音づつはっきり鳴っているところが、重い音色を中和している感じ。
アルマのテーマは淡い情感が漂う。センチメンタルになりすぎない。ほどよい甘さがある。
2楽章にスケルツォを置いている。アプローチは1楽章と同様に、オーケストラのまろやかな響きを生かしたもの。
3楽章も中庸。弦楽器をじっくりと歌わせている。ホルンのコクのある響きがおいしい。
終楽章はそれまでの楽章のアプローチと同様だが、ここはけっこう攻めている。あくまで流れは自然でありつつ、劇的な力も強い。木管楽器の合奏が決然としていてカッコいい。
1回目のハンマーは強烈。強くて、硬い。そこから2発目のハンマーまでは怒涛の進撃になるわけだが、ゴージャスな音の洪水。さすがコンセルトヘボウ。シカゴやフィルハーモニアとは趣きが違って、これもいい。
3つめのハンマーはなし。チェレスタはキラリと光る。2つ目のあと、激しい全奏のところでかすかに、しかし確かに聴こえる第2ヴァイオリンが凄い。ギュルギュルうなっている。
この曲、昔は「悲劇的」と言われていた。このシャイーによる演奏は、その副題がつけられた背景とかマーラーの心情を思いおこさせるものではなく、いわゆる純器楽曲として完成度が高いものだと感じた。
1989年10月、アムステルダム、コンセルトヘボウでの録音。
青。
3月に絶版予定。。
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