ネーメ・ヤルヴィ指揮エーテボリ交響楽団・他の演奏で、マーラーの交響曲8番「千人の交響曲」を聴く(1994年11月、エーテボリ、オペラ・ハウスでのライヴ録音)。
「大宇宙が響き始める様子を想像してください」
これは、たっぷりとした臨場感がある演奏。
ヤルヴィはその大きな手で音楽を鷲掴み、歌手のレベルも高い。
いままで聴いた8番のなかで、もっとも強力なディスクのひとつ。
第1部は、冒頭から迫力満点。金管とティンパニ、パイプオルガンがエンジン全開で炸裂。
歌手はみんな比較的若いのか、瑞々しくて伸びやかな声。ムラがない。豊かな残響と相俟った響きが美しい。第1部においては、彼女らはあたかも楽器のひとつみたいに、オーケストラに溶け込む。
第2部は、従来の伝統的な4楽章構成の交響曲における、「アダージョ」、「アレグロ(スケルツォ)」、「終楽章」の3つに大別できるが、本演奏はどれも甲乙つけ難く冴えている。
出だし、シンバルはそっと始まり(こんなに小さな音で開始されるのを他に聴いたことがない)、神秘的な音楽がじつに精妙に展開される。弦楽器によるピチカートのうえに、ファゴット、弱音器をつけたトランペット、クラリネットらがソロで奏されるくだりは、計算され尽くした室内楽的管弦楽法の妙を味わえる。ヤルヴィの手腕は高い。
ペーションによる法悦の教父は、威厳にはいささか欠けるものの、若々しい声で聴かせる。こういう歌もいい。ティッリの瞑想する教父は、豊満な声、貫禄もある。
児童合唱による天使は、夢のように可愛らしい。高いレベルにある。ルオホーネンのマリア崇敬の博士は、硬く引き締まったまっすぐな声がよい。
グスタフソンによる罪深き女、テンスタムによるサマリアの女、イェヴァングのエジプトのマリアは、いずれも、じっくりと呼吸が深く歌い上げられている。とくに、グスタフソンと一瞬あらわれる弦楽アンサンブルとの掛け合いは神秘的。サンドグレンの栄光の聖母は可憐にして高貴。
役者は出そろった。そしてマリア崇敬の博士が神秘の合唱のテーマを歌うと、音楽はぐんぐんと比類のない高みに向かって高揚していく。
混声合唱による神秘の合唱は、極めて弱く歌われる(ボリュームの焦点をここに合わせると大変なことになる)。それはやがて、パイプオルガンを伴っての大合唱になる。全身が痺れる。
ラストのティンパニとグランカッサの一撃は強烈。
ウラ・グスタフソン(ソプラノ)
マリ=アンネ・ヘッガンデル(ソプラノ)
カロリーナ・サンドグレン(ソプラノ)
ウルリカ・テンスタム(アルト)
アンネ・イェヴァング(アルト)
セッポ・ルオホーネン(テノール)
マッツ・ペーション(バリトン)
ヨハン・ティッリ(バス)
エーテボリ交響楽団・同合唱団
エーテボリ歌劇場管弦楽団・同合唱団
王立ストックホルム・フィルハーモニー合唱団
エストニア少年合唱団、ブルンスブー児童合唱団
図書館。
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