向田和子の「向田邦子の恋文」を読みました。
「食べてないので、立つと少しフラフラします。28日までには、直します。ゴメンね。
では、そちらもお大切に。
手足を冷やさないように。 バイバイ」
前半は、邦子と愛人との書簡、後半は9つ歳の離れた妹の和子による回想録となっています。
読みどころは前半。でも、いささか分量が少ないので物足りなさは否めません。というのは、邦子から愛人のN氏へ宛てた残された手紙は、わずか5通なのです。
内容は、とても他愛もないもの。仕事でホテルにカンヅメになったとか、夜食にケーキを5個食べてお腹がピーピーになったとか、他の人のシナリオを読んでシャッポを脱いだとか。でも、なにげない筆致のなかに、日常生活に対する喜びと楽しみを見出していて、それを大切な人に伝えようとする姿勢が、とても健気。
いままさに格闘している実生活というものを、これほど親密に、リアルに、そしてイキイキと描いた文章は、なかなか読めるものではないと感じました。
写真は、本の半ばに挿入されている彼女のポートレイト。
ゲヴァントハウス弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲12番を聴く(1996年5月-1997年1月の録音)。
これは、春のお日様を思わせる、ぬくもりある演奏。
この団体によるベートーヴェンもとうとう後期まできた。
いままでのような柔らかさを湛えつつ、なおかつ、とてもおおらかな演奏であるので、けっしてしかつめらしくない。こんなに聴きやすい12番は、そうそうないといってもいいくらい。
ひとつひとつの楽器がほろほろといい塩梅にほどけていて、丁寧で、どれも生きる勇気が漲っている。
2楽章の前半は、ともすれば悲痛な音楽になってしまうが、彼らの弾きぶりはとても親密で、むしろ明るささえ感じる。最後のほうは、夢見ごこち。
3楽章は、豊満なチェロをはじめ、とても膨らみがある。トリオは美しい。テンポはたっぷりとしていて、スケールが大きい。
4楽章も、テンポはゆっくり目。4名の楽器が木目調の色合い。じつに滋味深い。
フランク・ミヒャエル・エルベン(ヴァイオリン1)
コンラート・ズスケ(ヴァイオリン2)
フォルカー・メッツ(ヴィオラ)
ユルンヤーコプ・ティム(チェロ)
パースのビッグムーン。
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