チャールズ・ディケンズ(加賀山卓朗訳)の「二都物語」を読む。
これは、フランス革命下のパリとロンドンを舞台に、ふたりの男がひとりの女をめぐってのたうちまわる様子を描いた長編小説。
前半はゆっくりと進行する。いろいろな布石が用意されている。この調子では文庫1冊では終わらないぞと思い始めたが、後半の1/3はいきなり速度があがり、話がめくるめく展開する。つまり、前半はフランス革命前夜であり、後半は革命まっさかりなのである。
私はフランス革命というものを、ぼんやりとしたイメージでしか知らなかった。ルイ16世とマリー・アントワネットが処刑されて共和制になったという、教科書通りの知識だ。
でもこれを読むと、血の粛清はじつに広きに渡って繰り広げられたことがわかる。貴族はもちろん、貴族に仕えたものや貴族を支持していたものたちは、出来レースの裁判にかけられた後に、ギロチンで公開処刑される。市民の狂った欲望と残虐さが、如実に伝わってきて怖い。
ラストはミステリー仕立て。男の友情が臭いくらいに濃厚だが、嫌いじゃない。
あとがきに翻訳者が書いているが、ディケンズの翻訳はとても難しいらしい。けれども、非常に平易になっていてスラスラと読むことができた。初めて読んだので比較はできないけれど、いい翻訳だと思う。
ポリーニのピアノで、ベートーヴェンのピアノソナタ23番「熱情」を聴く。
冒頭に紹介したジャケットのCDには「熱情」が2種類含まれている。ひとつは2002年にミュンヘンで行われたセッション録音、もうひとつは同じ年にウイーンで行われたライヴの録音である。ここでは、ライヴの演奏について取り上げてみたい。
ポリーニは長いことかかって、ようやくベートーヴェンのソナタの全集を完成させた。75年からだから、彼のピアニストとしてのキャリアを包含していると言っても過言ではないだろう。最初に後期のソナタをぶちかますあたりがスター・プレイヤーならではだ。この全集については、おいおい聴いていく。
また彼は、協奏曲もやっている。私が知る限り、ベーム(ヨッフム)とアバドとの2種類の全集がある。
録音だけでこれだけのキャリアがあれば、彼を「ベートーヴェン弾き」と呼んでもいいのじゃないかという意見があると思うが、それには賛成できない。いままで聴いたポリーニのベートーヴェンで、感銘を受けたのは2回だけだからだ。一度目は、東京文化会館で聴いた「ハンマークラヴィーア」であり、もうひとつはこれも東京公演なのだが、NHK-FMで聴いた「熱情」である。
彼のピアノの音は、きれいとは言い難い。音の魅力ではリヒテルやミケランジェリはもとより、現役ではレーゼルやシフに及ばない。だから、というのも変な言い方だが、ベートーヴェンは比較的馴染むような気がするのだが、多くのセッション録音を聴いても、これといっていいとは感じない。ベートーヴェンの音楽をやるには、なにかが、足りない気がする。それはあるいは、グルダやゼルキン、あるいはグールドがもちあわせていた霊感のようなもの。ただ、ライヴではときおり、その一端を聴かせてくれた。だからこのディスクも、まずはライヴを聴いてみたわけ。
ここでのポリーニの演奏は、音は相変わらずきれいでないし、テクニックも衰えた。86年の彼は、もっとスマートに弾いていた。
よって、この演奏には、録音当時60歳を過ぎたポリーニの円熟がなければ価値がない。通して聴いたところ、ポリーニのスタイルは変わっていない。「熱情」という曲に対する解釈は、30年前と基本的に同じである。違うのは、技術の衰えを気力でカバーしているところ。3楽章のラストはなかなか迫力があるが、痛々しくもある。正直言って、聴くのが少しツラかった。
そんな彼は、今70歳を越している。どうなっているのだろうか。
ソナタ全集を聴かなければなるまい。
2002年6月4日、ウイーン、ムジークフェラインザールでの録音。
連絡:
ハンドルネームを変更します。というか、本名にいたします。
旧・・・ポンコツスクーター
新・・・芳野達司
もともとツイッターは本名でやっているので、ここであえてHNを使う必要はないかと。
よろしくお願いいたします。
おでんとツイッター始めました!清々しい。
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