川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」を読みました。
「用もないのに、わたしから三束さんに連絡することはできなかったけれど、もしかしたら本の感想を書いて送るくらいだったら迷惑にはならないんじゃないかというような考えがときおり頭をよぎるようにもなっていった。それで、推敲に推敲を重ねた感想のメールを三日かけて書き、さらに二日をかけて読み直し、お酒を飲み、もうどうにでもなれという気持ちで送信をクリックした」。
これは、30歳半ば、フリーで本の校閲を生業とする女性が、物理教師と称する初老の男性と恋に落ちる話。
物語は女性の一人称で語られます。彼女の引っ込み思案なところは、高校時代にまで遡って説明されます。その1シーンは、ラストに回帰し、少なからずショッキングな効果を生んでいます。
彼女は彼と知り合ってから、アル中になり、果てはうつ状態になるなど、苛烈な思い入れをします。そのあたりの描写は、意外と、ありそうでない。とても人間に親密なように思います。
彼女には編集者である同性の友人がいます。この友人が、この物語のひとつの大きなモチーフとなっています。回帰したラストの1シーンは、彼女に絡んでいます。
もしかしたら、題名にある「恋人」とは、編集者の彼女のことだったのじゃないか。そんな読み方ができるのではないかと感じます。
ハンガリー弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲4番を聴きました(1953年12月、パリでの録音)。
この曲は、ベートーヴェンの初期の四重奏のなかでは、もっとも悲劇的な色調が強い。そしてこの曲には、緩徐楽章がないと思われます。後の、交響曲7番みたいに。だから、トーンは暗めだけれども、ある種の勢いを感じさせます。
ハンガリーSQのテンポは中庸、もしくはいくぶん速め。派手さは皆無なものの、じっくりとした佇まいに誠実さを感じないわけにいきません。
1楽章は、提示部、展開部、再現部とシーンが移り変わるときに、ほんの少し間を空けています。それがなんとも絶妙。
2楽章は、可愛らしいフーガ。朴訥な味わいがあります。
3楽章メヌエットは速い。春風のように過ぎ去る。
一転して4楽章アレグロは、落ち着いたテンポ。ひとつの音を味わうように奏しています。とくにロンドの「C」の部分においてのヴァイオリンの密度の濃い美しさは格別です。
4番は、どこもいい演奏をするなぁ。
ゾルターン・セーケイ(ヴァイオリン)
アレクサンドル・モシュコフスキ(ヴァイオリン)
デーネシュ・コロムサイ(ヴィオラ)
ヴィルモシュ・パロタイ(チェロ)
パースのビッグムーン。
PR