エマーソン弦楽四重奏団の演奏で、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲14番を聴く(1994年3月、ニューヨーク、アメリカ文芸アカデミーでの録音)。
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、16曲すべて素晴らしいものだ。人類の至宝というに不足はない。
そこで恐れずに言うならば、もっとも好きなのは15番、一番エライのは14番、というのがいまの印象。
クラシック音楽という広い世界においても、14番ほど堅苦しい音楽は他にそうないものだ。でも、イマジネーションの豊富さ、構成の堅固さ、感性の繊細さにおいて、作品としての質の高さは突出していると思う。
そんな音楽を、現代のスーパー・クァルテットの演奏で聴く。
テクニックの高さは尋常ではない。
オーケストラで言えばショルティ率いるシカゴ交響楽団、ピアノでいえば1970年代のポリーニを想起させるような、そんな演奏。
それでいて、ただ単に技術的な高みだけではなく、細部への拘りもある。表情のつけかたが、微に入り細にわたっており、たいへんにデリケート。
それは全曲を通して感じることができ、ときおり、気疲れするようなところもある。ただ、このように神経質ではあるけれど、その反面、ある種の魅力を感じないわけにいかない。そして、面白い演奏であることには違いない。
この演奏から現代人の憂鬱さを汲み取るのは、穿った見方かもしれないけど。
なお、この四重奏団はヴァイオリンの第1と第2を曲によってシフトさせていて、12番とは逆になっている。
フィリップ・セッツアー(ヴァイオリン1)
ユージン・ドラッカー(ヴァイオリン2)
ローレンス・ダットン(ヴィオラ)
デヴィッド・フィンケル(チェロ)
パースのビッグムーン。
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