小谷野敦の「日本人のための世界史入門」を読む。
毎日のように図書館に通っている著者だから、その博学ぶりをおしみなく開陳させたこれは読み物。
わずか264ページのなかに古代ギリシャから現代までを詰め込んでいるから、当然、口調はかなりの早口だ。文章の密度が濃い。
歴史教科書にかかれているような、いわゆる王道の筋書きの記述もさることながら、この本では小ネタが頻繁にでてきて、それが面白い。
例えば、第二次世界大戦のドイツについてはこう書いている。
「日独防共協定から日独伊三国同盟へと進んだが、ヒトラーがどれほど日本を尊重し頼りにしていたかは疑問で、その「わが闘争」では、日本人を劣等民族だと書いている。日本語訳は大久保康雄が出したが、その部分は削られた。しかし、原典や英訳で読んだ知識人は知っていた」。
その他、文学や音楽についての記載もあり、勉強になるところが多い。
繰り返し紐解く価値のある本であると思う。
ケント・ナガノ指揮バイエルン国立管弦楽団の演奏で、ブルックナーの交響曲8番(1887年第1稿)を聴く。
この曲の第1稿を聴くのは、インバル指揮フランクフルト放送交響楽団以来。CDを保有しているものの、20年くらい聴いていない。インバルの演奏は見事なのだが、やはり曲が、完成されていながらも未完成感があるので敬遠していた。
そんな中この数ヶ月、ナガノがバイエルン国立管と演奏したブルックナーの4番と7番を聴いた。とても、よかった。現代の演奏の代表となりえると思うくらいに。であれば当然、8番はいくしかないだろう。第1稿であろうと改訂版であろうと。
全曲で99分。長さで言えば、チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルに迫る。
1楽章 19:55
2楽章 17:09
3楽章 33:37
4楽章 28:44
インバルの演奏は70分台であるから、だいぶ様相は異なる。だがこれを実際に聴いてみると、チェリビダッケの、腰が抜けるような遅さではない。心もち遅いかな、くらいな感じ。体感的には、カラヤンが晩年にウイーン・フィルと録音したものをイメージして頂ければいい。
ではなぜ、インバルとこんなに演奏時間が違うのか。
スコアを見ていないのであてずっぽうなのだが、インバルはカットをしていたか、あるいは反復を省略していたのではないかと思われる。でなければ、20分以上も演奏時間が違うはずはない。それほど、ナガノのテンポは自然。
オーケストラのバランスは絶妙。重厚でコクのある弦楽器を主体に、木管・金管パートも深い音色を聴かせてくれる。
ナガノの一連のブルックナーを聴いてつらつら思う。バイエルンのオーケストラはこんなにうまかったかしら。このオーケストラの生を一度、C・クライバーの指揮で聴いたが、あのときはこんなに立派ではなかった。演目が違うので単純には比較できないが、このブルックナーのような厚い響きは聴こえなかったように記憶する。ナガノの薫陶のもと、鍛えられたのかもしれない。どこを叩いても揺るぎのない、じつに堂々としたブルックナーである。
もちろん、第1稿であるから随所に違和感を感じないわけにいかない。それでもなお、版の違いを乗り越えた魅力がこの演奏にはある。これは、ナガノ渾身のブルックナー。
ふくよかな録音も素晴らしい。
2009年、ミュンヘン、ファラオ・スタジオでの録音。
夜カフェ。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR