ブラームス 交響曲第1番 ヴァント指揮 シカゴ交響楽団山本昌の「133キロ怪速球」を読む。
今年で48歳になる彼が、登板するたびに新しい記録を塗り替えていくのはご存じかもしれない。
これは彼が2009年に執筆した自叙伝。ピッチャーとしては当時としても、工藤と並んで大ベテランの代表格だった。
山本は84年に中日ドラゴンズに入団するが、1軍での勝利がないまま、プロ生活5年目にベロビーチへ野球留学する。そこで覚えた「スクリューボール」を携えて帰国し、やがて日本球界を代表する投手になる。
ベロビーチキャンプでの逸話がいい。
あるとき、ドジャーズ伝説の投手であるサンディ・コーファックスが山本の練習を見に来る。そこで一言。
「この投手は今すぐにサイドハンドにするか、さもなくばトラックの運転手になるべきだ」。
その数ヶ月後、スクリューボールを駆使してローテーション入りした山本を、再度コーファックスが見に来る。
「この男は、あなたがトラックの運転手になるべきだといった、あの投手ですよ」。
「オレがそんなことをいうはずがないだろう」。
ギュンター・ヴァントの指揮でブラームスの1番を聴く。
ヴァントがアメリカのオーケストラを振ったのは、このシカゴ響との演奏が初めてなのだそうだ。ときに77歳。遅すぎるアメリカデビューといっていいだろう。晩成の誉れ高い彼らしいとも言えるが。
さて、演奏はとても筋肉質で輝かしい。冒頭から一気に引き込まれる。やや速めのテンポでもって、シカゴの弦が眩しい光をおしみなく放つ。ティンパニの打撃は楔のようにがっちりと全体を締めていて痛快。
2楽章は弦がやはり輝かしいし、オーボエもいい。レイ・スティルだろうか。たんたんと吹いていて、軽やかな味わいがある。
3楽章においても、よくブレンドされた弦が美しい。アンサンブルも精確である。クラリネット、オーボエ、フルートは、それぞれ軽妙。
終楽章は、とくに後半になってテンポの変化が多いが、違和感はない。自然の流れのように受け入れることができる。フルートの厚みのある音が、要所を決めていてじつに効果的。ラストは金管群がスッキリとした咆哮を聴かせて気持ちがいい。
ヴァントのブルックナーはあまり好きではないのだが、このブラームスはよかった。
またこれは、ショルティ時代のシカゴ響が金管だけでなく、弦が素晴らしかったことを裏付ける演奏である。
1989年1月、シカゴ、オーケストラ・ホールでのライヴ録音。
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