「人は田舎や海岸や山にひきこもる場所を求める。君もまたそうした所に熱烈にあこがれる習癖がある。しかしこれはみなきわめて凡俗な考え方だ。というのは、君はいつでも好きなときに自分自身の内にひきこもることができるのである。実際いかなる所といえども、自分自身の魂の中にまさる平和な閑寂な隠家を見出すことはできないであろう」(第4巻-3)。
レヴァイン指揮シカゴ交響楽団・他の演奏で、ブラームスの「ドイツ・レクイエム」を聴く。
この曲を最初に聴いたのは、バレンボイム指揮ロンドン・フィルの演奏。中学生の頃。なにをとち狂ったのか、一度も聴いたことがないくせに2枚組のLPを買ったのだった。うろ覚えだが、「レクイエム」と「ドイツ」という語呂に妙に惹かれたのだろう。
当時はこの曲を面白く聴くことが難しかった。だから、そのLPはいま手元にない。どこかのタイミングで売っ払ってしまったのだろう。
それ以来、この曲をCDでも買ったことがなかったし、FMで聴くこともなかったし、図書館で借りることもなかった。正直言って、まったく興味をそそられなかった。
このレヴァイン盤は、ようやくその封印を解いてくれた。苦節(?)30年あまり。
ああ、しみじみいい。いろいろな音がクリアで、明確に聴きとれる。
録音年代を鑑みると、この頃シカゴ交響楽団と合唱団は、ショルティとともに「マタイ受難曲」や「メサイア」、「天地創造」など、合唱の大曲を次々と録音していた。マーラーの2度目の全集もこのあたりだ。これらの試みは主にバッハとヘンデルの生誕300年のためという要素が強かったのだと思うが、それにしてもシカゴ交響合唱団という、オーケストラに常駐する歌の団体がこのときほど注目されたときは他になかなかないだろう。合唱指揮はマーガレット・ヒリス。このディスクでも素晴らしいコーラスを聴かせてくれる。
RCAの録音はややウェットなものの、バリッとしたオーケストラの音色といくぶん硬めの合唱は、全曲を通してまったくもたれることがなく、この曲にしては(おそらく)軽やかな仕上がりになっている。これがシカゴ、そして若きレヴァインの魅力。
バリトンはハーゲゴール、ソプラノはバトル。ふたりとも、自由闊達に歌っている。レクイエムにしてはいささか劇的すぎるきらいがないでもないが、これはアリだろう。聴きごたえじゅうぶん。
やっぱりこの時代のレヴァインはいいな。
1983年7月、シカゴ、オーケストラ・ホールでの録音。
ブッシュ・ファイア。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR