ラドゥ・ルプーのピアノで、ブラームスのピアノ・ソナタ3番を聴く(1981年7月、ロンドンでの録音)。
これはデリカシーたっぷりな演奏。
この曲は、青春の若き血が暗く渦巻いて燃えたぎる音楽であって、3楽章なんか、いささか暴力的なところもあるんだけど、ルプーはそうやらない。変化に富んでいる。
1楽章は、出だしこそ激しいけれども、第2主題は落ち着き払って、丹精込めて、じっくりと弾いている。濃淡のメリハリをきちんとつけていて、それがいたって自然に聴こえる。この柔軟さが、ルプーの持ち味。
2楽章は、まるでなにかに達観したような佇まい。澄んだ空気のようでもあり、無理やり封じ込めた情念のようでもある。高い音が星のきらめきのよう。
3楽章は、昔に好きだった曲で、いまも好きではある。ツィメルマンとかゲルバーはわりと激しくやるけれど、ルプーはだいぶ抑制している感じ。しっとりしていて、美しい。テンポの細かな変化がみられる。
4楽章は、短い楽章だけれども、やはり強弱の変化を多くつけていて、表情がたっぷりとしている。
5楽章は、第2主題がとてもロマンティックであって、それをほどよく湿り気を帯びたタッチで、夜の香気や、ときには春の草花の彩りを添えて弾いていて素敵。
パースのビッグムーン。
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