ヨッフム指揮ロンドン・フィル録画しておいたカルロス・クライバーのドキュメンタリー「ロスト・トゥー・ザ・ワールド」を観る。関係者の証言を集めて実像に迫ろうという趣向の番組。
面白かったのは、クライバーの女好きの話。トランクひとつでルチア・ポップの家に行って同棲を迫ったり、日本で芸者遊びをしたり、お盛んだった。そういうことがしょっちゅうあったので、奥さんはとても悲しんだとコトルバスが言っている。そりゃそうだ。元バレリーナの奥さんはコケティッシュで可愛い人なのだけれど、それとこれとは別なんだよね。
でもそういう人の多くは奥さんに依存する。
奥さんが亡くなったあと、抜け殻のようになったクライバーは、奥さんの母国スロヴェニアの家で誰にも看取られずに往生する。奥さんの死から1年後のことだった。ふたりで写った晩年の写真が、なんともいい。
クライバーほど恰好よくはないけれど、味ではまけていないぞヨッフム。
ブラームス4番は、じっくりと厳かに始まる。この「悠揚迫らざる」空気、フルトヴェングラーを思い出さずにはいられない。巨匠風だ。いや、巨匠である。巨匠なのは出だしだけではない。全体を通して、熱くて激しい。底には暗い情熱がじわじわと燻ぶっていて、ときどき我慢しきれなくなって爆発する。スタイルは少々古めかしいものの、野太い攻撃性は捨てがたいものがある。録音記録を読むと何度かセッションを重ねたようなのに、聴いているうちにライヴ録音のような気がしてくるくらい。弦楽器に瑕疵があるところも、そう感じる要因になっている。
また、ロンドン・フィルの曇り空サウンドが、暗い情熱にいい感じに輪をかけている。音色そのものは、ある意味ドイツのオーケストラよりも重いし、この時期におけるEMI特有のくぐもった録音がさらに拍車をかけている。最初に聴いたときは冴えない録音だと思ったが、何度か聴いているうちに、この録音あっての演奏なのだと思い始めてきた。錯覚だろうか。
1976年6、7、10月、ロンドン、キングズウェイ・ホールでの録音。
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