バッハ「ゴルトベルク変奏曲」 カール・リヒター(cmb)TDKのオリジナル・コンサートのシリーズが廉価になって再登場。昔、FM東京で放送されていた演奏の復活である。
そのなかでも、リヒターのバッハは以前から「異様な演奏」と評されていたので、気になっていた。
それが1050円の廉価で店頭に並んでいたので、迷いはなかった。
リヒターのこのライヴは、清濁併せ呑んだ巨大な演奏であり、あまりの奔放さに一歩引くほどだ。
テンポのゆらいだアリアから始まり、風のない海のようなおだやかな部分があるかと思えば、急に激情にかられた嵐のような場面もありで、たいへん忙しい。
ミスタッチは多い。
特に前半が顕著。音を外すどころか、楽譜をすっ飛ばしてまた元に戻るような場面もあってひやっとさせられる。でも、その後はなにもなかったかのように躊躇なくガンガンと進んでゆくので、全く停滞しない。
あたかも即興でカデンツァを弾くかのごとくであり、オレ流まっしぐらだ。
リヒターの使っているチェンバロは、モダン・チェンバロというそうだが、確かにレオンハルトの演奏に比べると音が全然違う。
まず、音が重い。それと、レジスターの変更という技法を使用しているところが効果的だ。
それは、ときにはツィンバロンのような、ときにはリュートのような音を醸し出し、それが単独で現れたり、通常のチェンバロの響きと組み合わさって鳴らされたり、変幻自在の音の世界が繰り広げられる。
駆け抜ける激動のジンセイのようなバッハである。
こういう演奏を許容する、この作曲家の懐の深さはいまさらながら底知れない。
ダテに子供を20人も作ってはいない。
なお、弾き手のリヒターも絶倫だったらしい。
1979年、石橋メモリアルホールでのライヴ。
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