チャイコフスキー「交響曲第2番」 ムーティ指揮フィルハーモニア管弦楽団木田元の「反哲学入門」を読む。
6章からなる全体のうち、5章から始まるニーチェ以降の活動を「反哲学」と言っている。それはニーチェが、プラトンから近代までの考え方を否定して新しい流れを作ったから。そこから現代思想へ流れ込むくだりは、迫力がありスリリング。
その一方、近代までの「哲学」は色褪せてくるかといえばそうじゃなく、むしろ、4章までの記述がとても興味深い。なかから、デカルトに関する記述を引用する。
「デカルトの言う『理性』は、神によってわれわれに分かち与えられたものであり、われわれ人間のうちにありながらもわれわれのもつ自然な能力ではなく、神の理性の派出所とか出張所のようなものなのです」。
なるほど。神の出張所だから、ちゃんと使いこなせば普遍的な認識ができるという見立てである。
こうした分かりやすい例えが随所に用意されているから、難解な哲学用語を知らなくても、哲学史の流れを鷲づかみにできたような気になる。勘違いもまた一興。
いままで読んだいわゆる「哲学入門」のなかで、これはダントツに面白い。
音楽は、ムーティが指揮するチャイコフスキーの交響曲2番。ひと昔前は「小ロシア」が一般的で、このCDの記載もそうなっているけど、そもそもウクライナの民謡を用いた経緯もあり、いまふうに「ウクライナ」と呼ぶほうがしっくりくるように思う。
副題はともかく、このムーティによる「ウクライナ」は、なんとも威勢がいい。スタイリッシュであり、かつ、爆演の匂いがぷんぷんする。フィルハーモニア管のメタリック臭の強いティンパニが、終始大活躍。ことに終楽章は、ティンパニ協奏曲といってもいいくらい、ひたすら鳴り響いている。普段では目立たないところもこの録音では鮮明に録られているから、ほんとうに休みなしで叩かれているように感じる。これは体力勝負だ。
また、弦楽器もつややかで素晴らしい。ときおり、ハッとするような艶めかしい響きを醸し出している。弦セクションとティンパニとの対比は妙味。
この1週間で10回位聴いた。飽きないどころか、元気が出てくる。改めていい曲だと思う。
1977年3月、ロンドン、アビー・ロード・スタジオでの録音
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