レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィル五味康祐の「いい音いい音楽」を久しぶりに読む。最初に読んだのは中学のときで、図書館で何度か借りて、繰り返し読んだもの。文庫化されるのはたぶん今回が初めてじゃないかと思う。
開いてみると、想像通り、中身をわりと覚えている。リパッティのショパンは抜群だとか、ポリーニはいやらしいとか、C・クライバーはなかなかいいとか、カラヤンは帰れとか。懐かしい。いいたい放題で勢いがあるから、今より批判能力の低かった当時は、書かれているほとんどを鵜呑みにしたものだ。友人がポリーニのショパンを誉めているのに対して「精神が堕落しているよ」とかね(笑)。
あと、オーディオに関しても面白くて、これにもさんざん影響を受けた。よく覚えているのは、レコードの「ヒゲ」。ターンテーブルに載せるとき中心棒にあてがってあっちこっちにずらせると、レコードの孔の付近に中心棒の痕が残る、アレである。五味さんは、センター孔にヒゲのあるような手合いは、どんなに高価な装置をもっていても碌な音はだしちゃいまい、とプンプンである。これを読んだワタシは勿論、これを読んだ瞬間から心を入れ替えたのは言うまでもない。でも一方で、汚れたレコードを洗濯洗剤でゴシゴシ洗うような輩でもあった。
バーンスタインのシンフォニー・エディションは偉いから、チャイコフスキーの交響曲も全部収録されている。「マンフレッド」は入っていないが、録音していないのだから仕方がない。このBOXのチャイコの演奏はどれも初めてなのだが、後期の3曲は異演盤で聴いているので(実際聴いてみると、だいぶ様変わりしていたが)、興味は初期の3曲にあった。なので、とても期待をして1番2番と聴いてみた。悪くはないのだけれど、なにかがほんの少し足りないようだし、覇気が空回りしているような気がした。文句なしに水準以上の演奏ではあるけれど、この時期のバーンスタインにしては、という過剰な期待の裏返しなのだ。だから3番は、軽く聞き流していたのだが、これにはピンとくるものがあったね。
ひとことで言ってしまうと、チャイコフスキーの憂愁が色濃く漂っている演奏だ。1楽章の尻切れトンボみたいな甘いメロディーには、たっぷりと砂糖がまぶされていて、かつ味わいが鋭敏。ピチカートで始まる2楽章の、ほのかに憂いが漂うワルツは、この交響曲のなかの聴きどころのひとつだが、弦楽器がことのほかみずみずしい。昨年末に放送された「坂の上の雲」のなかで、広瀬中佐がロシア女性と逢引をしているシーンを思い出した。ひんやりとしていて甘酸っぱい夢。終楽章における、寄せては返すようなしつこいサド的フィナーレも豪壮で大変よろしい。ドンヒャラドンヒャラ、あと5分は続けてくれてもいいくらいだ。10分だと寝ちゃうかも。
1970年2月、ニューヨーク、フィルハーモニック・ホールでの録音。
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