ショパン「バラード」 ウィトルド・マルクジンスキー(Pf)原宏一の「ブラッシング・エクスプレス」を読む。失業中の中年男が、腕はいいのに経営下手の元歯医者と歯磨きビジネスに取り組む話。ストーリーにやや飛躍があるものの、新しいビジネスを始めるくだりは、けっこうワクワクする。
その他、収録されている「天下り居酒屋」など5編も、風刺がピリリときいた読みやすい短編。
マルクジンスキーは1914年にポーランドで生まれたピアニスト。いっときはパデレフスキーにも教えを請うたというから、ショパンの正統な流れを汲むソリストということになるかもしれない。
この人の弾くショパンは、バラードを聴く限り、感傷的な情感をいくぶん抑えているように感じる。淡々としており、その味はやや酸味のきいたほろ苦いコーヒーを思わせる。ときおり醸し出す弱音の透き通った美しさは大きな魅力で、いっときの甘い夢のよう。なかでは4番は、すぐれているように思う。
1962年12月の録音。
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