エミール・ギレリス(ピアノ)マルクス・アウレーリウス(神谷美恵子訳)の「自省録」を読む。
著者は2世紀のローマ皇帝。北のゲルマン民族からの攻撃を迎撃する日々を送りながら書き綴ったのが本書である。
毎晩読んでいたら付箋紙だらけになってしまったが、いまひとつあげるとすればこの言葉だ。
「眠りから起きるのがつらいときには、つぎのことを思い起こせ。社会に役立つ行為を果たすのは君の構成素質にかなったことであり、人間の(内なる)自然にかなったことであるが、睡眠は理性のない動物にさえも共通のことである。しかるに各個人の自然にかなったことはその人にとってなによりも特有なことであり、なによりもふさわしいことであり、したがってなによりも快適なはずである」。
なんとも日常的な常識が、時空を超えて語りかけてくるところが不思議で感動的。
座右の書である。
ギレリスのシューベルト17番(ニ長調)ソナタを聴く。
村上春樹はこの演奏を「重戦車的ピアニズムの展開」と表現していたが、私が聴いた限りではそんなふうには思わなかった。
むしろ、自然な演奏であるという印象が強い。
ことに2楽章は美しい。ピアニッシモを念入りに扱って、丁寧でリリカル。微に入り細に入ったピアノは微妙に揺れる弱音を駆使して、シューベルトの繊細な情感を奏でている。
「重戦車的」と指したのは1楽章か3楽章だと思うが、ここでもことさら威圧的なところはない。自然の流れに則ってパワフルさを発揮しているという感じだ。
全体を通して、ナチュラルでありつつ幻想味をじんわりと感じさせる演奏であり、すばらしい。この曲の名盤のひとつとして大切に持っておこう。
1960年1月、ニューヨーク、タウン・ホールでの録音。
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