水野敬也の「夢をかなえるゾウ」を読む。
これは、インドの神様が、うだつがあがらないが向上心はある青年サラリーマン宅に降臨し、毎晩のように出世するためのアドバイスをするという長編小説。
神様の御神託は、有名どころの自己啓発本から引用したもの。「7つの習慣」や「道は開ける」あたりかなと思っていた。だから、本文中のアドバイスは新鮮とは言えない。
ただ、巻末に参考文献の一覧があり、この小説を読んで気に入ったら次のステップとして読めるようになっているのは親切(7つの習慣は入っていなかった)。
インドの神様は、ゾウの形をしており、手は4本。関西弁を操り、サブいギャグを飛ばす。真剣な主人公とそれを茶化す神様とのやりとりはなかなか面白く、何度か笑った。
参考文献を見た感じだと、1時間で読み終えてあとにはなにも残らない駄本は見当たらない。その意味でこの本は、若い人が良質な自己啓発本を読むきっかけにはなるのじゃないかと思う。
ルドルフ・ゼルキンのピアノで、シューベルトのピアノ・ソナタ20番を聴く。
先週に聴いた即興曲と同様、ゼルキンは背筋をピンと伸ばしたシューベルトを聴かせてくれる。硬質な音色は銀色に輝き、大河のように太い流れには強靭な意志を感じないわけにいかない。
今週になって、もう数回ではすまないほどに聴いたが、まったく飽きない。それどころか、聴くたびに新たな感銘を受ける。
いままでこの曲を、ナイーヴなアンスネスや情感豊かなシフの演奏を好んで聴いていた。確かに、ナイーヴで情感は豊かである。それはこの曲の素顔であろうと思う。そのせいもあり20番は、後期のソナタのなかでは比較的穏便な音楽だという印象があったが、ゼルキンのピアノで聴くとやはり強い。
シューベルトのデモーニッシュな力が、そこかしこから伝わるのである。
それは主に、1楽章の展開部以降、2楽章全般。普段どういった生活を送ればこんな音楽を書けるのか計り知れない寂寞とした空気、そしてそれを切り裂くようなゼルキンの明晰なトリル。なんという鮮烈さ!
深い感銘を受け続けている。
1966年2月、ニューヨーク、30番街スタジオでの録音。
水上バス乗り場。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR