シューベルト 即興曲集 シュナーベル先日、新聞を読んだら、前の職場の上司が来年度からシャチョウになることが報じられていた。
現社長はわりと最近に就任していたので、ちょっとオドロキだった。
最近ではあまりいないタイプの、武闘派である。まあ、今も昔もそんなにはいないだろう。普通の会社にそんなヒトが多かったら困る。
その彼に傘で殴られたことがある。
「そりゃ、おおげさだろう」と思うかもしれないが、本当である。
それはあるプロジェクトの打ち上げの席だった。当初からけっこう危機的なプロジェクトであり、それがなんとか収束がついたということで、ここちよい緊張感の緩みが全体的に漂っていた。
その日は雨の日だったのだろう、折りたたみの傘を脇に置いておいた。隣に座っていたのが不幸であった。
なにかの話で盛り上がって、まるでツッコミを入れるようなノリで、その折りたたみ傘で頭をボコボコと。
笑いながらではあったにせよ、あれは痛かった。
もともとそういう性質のヒトだったので、周囲は特段気にすることなく、いたって普通の出来事として流れていった。
全体的には和やかな宴会であったと記憶する。よくあることといえば、よくあることかもしれない。
あれから10年。
そのヒトとは、年賀状のやり取りをさせてもらっているが、年に一度、あの痛さの記憶がよみがえる。
宴会で殴られる部下がいなくなることを、陰から願うばかりだ。
即興曲は、1827年頃の作曲だから、シューベルト最晩年の作品といえる。
ただ、若くしてこの世を去っているので、若者の手によるものか、晩年のものなのか聴いただけでは相変わらずわかりづらい。作曲年代を知って、初めて後期の作品だと知るところだ。
シュナーベルのテンポは、ブレンデルに比べるとやや速めだ。でも性急という感じはしない。
むしろ短時間でじっくりと歌っているような指さばき。
テンポをあまり動かさないし、強弱の起伏も少ない。とても端正で毅然としている。どちからといえば、硬派。
そうした毅然とした佇まいから、シューベルトの田園的情感が淡く浮かび上がる。
それにしても、この曲はいい。
ソナタの冗長さもときにはいいけれど、このくらいの、歌曲に通じるようなサイズの曲でのシューベルトの柔らかい感覚は、何にも代えがたい。
1950年。ピアノの音が澄んだ、不満のない録音。
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