恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を読みました。
「三次予選で弾くはずだったクライスレリアーナ。もう弾くことはない、弾かなくていい、間違えたらどうしようと心配することもない、あのフレーズ。
執拗にそのフレーズは頭の中で繰り返された。舌打ちしつつ、何度も繰り返す自分のイメージも。
落ちた。俺は落ちたのだ」。
これは、日本で開催されたピアノの国際コンクールを舞台に、4人のピアニストが抱く思惑を描いた長編小説。
2段組み507ページの分量ですが、かなり改行が多いので、思ったほどのボリュームはありません。
著者が述べているようにコンクールが「見世物」であるとするならば、本作はその魅力をスマートに描き切ったエンターテイメント小説だと言えましょう。
冒頭から一気に読ませられる。全編通してムラなく面白い。
ここには数多くのピアノ作品が登場しますが、クラシック音楽に詳しくない人でも、楽しく読めるのではないかと思います。
優勝者は、予想通り。でも、誰が優勝するかという興味が、後半からメインテーマではなくなっているので、それは蛇足のようなものかもしれません。
この小説のスタイルを鑑みると難しいかもしれませんが、欲を言うならば、ピアニストであることの苦悩やエゴ、野望、狂気といったものを、もっと深掘りしたならば、作品に奥ゆきがでたのではないかと感じます。
パースのビッグムーン。
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