岡田昌子の題名役、佐藤正浩指揮 神奈川フィル・他の出演による、プッチーニ「トゥーランドット」公演に足を運びました(2020年10月18日、神奈川県民ホールにて)。
この公演で期待するところはいくつかありました。
まず芹澤さんのカラフ。11月の「ファウスト」や来年2月の「タンホイザー」(いずれも題名役)も控えている、進境著しいテノール。どんな声を聴かせてくれるのか、大きく期待していました。
次に砂川さんのリュー。何年か前にも聴いたけれど、彼女の歌は何度でも聴きたい。
岡田昌子さんに接するのは初めてかも。リッチャレッリがカラヤンとの録音で声を潰したという難役をどう演じるのか、こちらも楽しみ。
あとは神奈川フィル。チンピラみたいな人(笑)がコンマスなのは知っていたけど、生演奏は今回がたしか初。オペラでありながら、オーケストラの力量がわかる曲なので、じっくり聴いてみたい。
指揮者はヴェロネージから佐藤さんに変更しています。
公演は、まず視覚的にバレエが多用されていることが特徴。音楽に合わせて終始舞台を賑わせていました。バレエ音楽ではないから、ゆっくりとした、そしてある種の爬虫類のようなエロティックを感じさせる踊り。達者な技に唸ったものの、宙づりになった踊り手を見ていると、なんだかヒヤヒヤして落ち着かないところはありました。そして、歌い手より踊り手に目がいくことが多かった。
カラフは、輝かしい声に加えて、たっぷりとした情緒に満ちた歌を聴かせてくれました。三大テノールで云えばカレーラス。トゥーランドットとの謎かけの場面で、あんなに緊迫感があり、かつ奥行きのあるやりとりは今まで舞台では聴いたことがなかったと思う。生命の弾みとも云える響きが心地よかった。
トゥーランドットは鮮烈。鋭角的で伸びがあり、重さと軽みのバランスもいいし、声量もじゅうぶんで、オーケストラに負けていない。これを聴くと、彼女はトゥーランドットを歌わせたら、今の日本の第一人者と云えるのじゃないかと思うほど。
リューは安定感抜群。砂川さんのリューを視聴するのは二度目だけれど、可憐な歌唱は何度聴いても琴線に触れる。彼女にとって、ミミやミカエラと並ぶ、勝負役。マルグリートはどうだろう? いつか聴いてみたいもの。
ほか、ティムール、役人は立派だったし、ピンパンポンもなかなかでした。ただ、皇帝はなんだろう、かなり苦しそうで、まるでバリトンみたいだった。
神奈川フィルは、とりわけ弦楽器がよかった。音色はきめ細かく、しなやかで、コクがある。管楽器も緻密。全体を通して、東京フィルや東響と遜色のない力量があると、当公演においては感じました。
コンマスの石田さんは降り番だったよう。
演出はバレエを除いてはオーソドックスなもの。衣装デザインは、煌びやかな姫とくすんだリューや民衆との対比が際立っていたし、色合いのセンスがよかった。
全体を通して、コロナ禍で久しぶりだったからという注釈は抜きに楽しめた舞台でした。
指揮:佐藤正浩
演出・振付:大島早紀子
トゥーランドット姫:岡田昌子
王子カラフ:芹澤佳通
リュー:砂川涼子
皇帝アルトゥム:大野徹也
ティムール:デニス・ビシュニャ
大臣ピン:大川博
大臣パン:大川信之
大臣ポン:糸賀修平
役人:井上雅人
メインダンサー:白河直子
ダンサー:斉木香里、木戸紫乃、野村真弓、坂井美乃里
合唱:二期会合唱団
児童合唱:赤い靴ジュニアコーラス
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
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