小林秀雄の対話集「直感を磨くもの」から、河上徹太郎との対話「歴史について」を読む。
この対話は1977年に行われた。このとき、ふたりの付き合いは60年に及んでおり、対談の冒頭あたりはまったりとした昔話に華が咲くが、じょじょに内容はシリアスになっていく。
話がニーチェに及ぶと、小林のレトリックのキレが炸裂する。
「文献学の過激派だよ。文献を頼りに歴史を再建してみせるなどという仕事を、頭から認めないのだからな。彼にとって、歴史とは決して整理など利かぬ人間悲劇だ。彼の関心は、遺された文献ではない。文献の誕生だ。おどろくほど多種多様な人間による文献の発明と、その所有だ。つまり悲劇の誕生だ。」
なにを言っているのかよくわからないのに、なんか言い負かされてる感じ。
ヤノフスキの指揮によるワーグナー「ラインの黄金」を聴く。
以前に聴いた、ショルティ/ウイーン・フィルによる演奏と比較する。
まず歌手では、ヤノフスキ盤が好みだ。女声では好きなミントン、ポップ、あまりよく知らないナピアーが歌っており、どれも毅然としつつも可愛らしくて魅力的。男声ではやはり好きなシュライアー、アダム、そしてニムスゲルン、サルミネンといった大御所が並んでいて隙がない。
ショルティ盤では、戦後のバイロイトを支えた絢爛たるメンバーが顔を揃えているから、柄の大きさでは少し太刀打ちできないかもしれない。けれども、アクが少なく現代風に洗練されているのはこちらだろう。現代って言っても、もう30年以上前のメンバーではあるが。
合唱は互角。まあ、出番はそう多くはないので、ピンポイント的な聴き方になるが、どちらも艶やかで情感たっぷり。
管弦楽は互角。ウイーン・フィルとドレスデン・シュターツカペレだから、よほどへたっぴいな指揮者でない限り悪いはずはない。弦楽器のうねり、木管楽器の繊細さ、金管楽器の豊満さ、打楽器の重さ、それぞれ違いはあるものの、そのスタイルにおいて最上の音色を味わうことができる。
指揮はショルティのほうが好きだ。前にも書いたが、なんでこんなにブチ切れているのかよくわからない。ワーグナーのオペラ全曲で、こんなにとんがった演奏をする人物は、いまのところ空前であると思う。ベームも切れ味鋭いがライヴだからだ。ショルティのは確信犯。
とはいえ、ヤノフスキも悪くない。というか、かなりいい。ダイナミックは強くない反面、抒情的なところに深い味わいがある。弦楽器のキザミがはっきりと聴こえるところがいくつもあって、ハッとさせられる。総じて弱音が綺麗。歌手とのバランスも良好。
録音は、自然な広がりのあるヤノフスキ盤がいい。
ヴォータン:テオ・アダム
フリッカ:イヴォンヌ・ミントン
フライア:マリタ・ナピアー
フロー:エバーハルト・ビュヒナー
ドンナー:カール・ハインツ・シュトリュツェク
ローゲ:ペーター・シュライヤー
ミーメ:クリスティアン・フォーゲル
エルダ:オルトルン・ヴェンケル
アルベリヒ:ジークムント・ニムスゲルン
ファゾルト:ローラント・ブラハト
ファフナー:マッティ・サルミネン
ヴォークリンデ:ルチア・ポップ
ヴェルグンデ:ウタ・プリエフ
フロースヒルデ:ハンナ・シュヴァルツ
ライプツィッヒ放送合唱団
ドレスデン国立歌劇場合唱団
シュターツカペレ・ドレスデン
1980~83年、ドレスデン、ルカ教会での録音。
おでんとツイッター始めました!雨。
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