高橋秀実の「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー」を読む。
これは、東京の超進学校である開成高校の野球部が甲子園を目指す過程を描いたルポ。相変わらず温い高橋節はここでも快調。
開成高校は夏の東京大会でベスト16にまで進んだことがあるという。それは少なからず驚きであったし、そのような実績があれば本当に甲子園も夢ではないと思わせられた。
が、甘かった。読み進むうちに、このチームのダメぶりが爆笑を伴いつつ顕在化する。
「ドサクサに紛れて勝て」という監督の指導のもと、週に1度の練習をいかに効率よくこなすかが彼らの課題。だから、普通の練習では勝つことができない。守備は正面のボールしか取らなくていい、ピッチャーは取りあえずストライクを投げられればいい、とにかく打ち勝て、といった破天荒ぶり。「下手なのである。それも異常に」。
これは監督の言葉。
「野球はやってもやらなくてもいいこと。はっきり言えばムダなんです」。
高橋「ムダ、ですか?」。
「これだけ多くの人に支えられているわけですから、ただのムダじゃない。偉大なるムダなんです」。
高橋「偉大なるムダ?」。
「とかく今の学校教育はムダをさせないで、役に立つことだけをやらせようとする。野球も役に立つということにしたいんですね。でも果たして、何が子供たちの役に立つのか立たないのかなんて我々にもわからないじゃないですか。社会人になればムダなことなんてできません。今こそムダなことがいっぱいできる時期なんです」。
なんか開成らしい。
社会人になっても、ムダをしようよ、と言いたい。
マッケラスの指揮でモーツァルトの交響曲41番「ジュピター」を聴く。
室内管弦楽団を用いていて、しかもチェンバロ入り、ヴァイオリンは対抗配置であるがピリオド奏法ではない。古楽器のスタイルにとらわれない、自由なスタイルでの演奏で言えるが、録音年代を考慮すると、これでもなかなか当時は斬新だったかもしれない。
演奏そのものは、覇気に満ちたスケールの大きいもの。全曲で33分強かけているがこれは各楽章で反復をしているからで、テンポは全体的にサクサクと速い。
1楽章を聴きはじめて暫くしないうちに、プラハ室内管弦楽団の実力の高さがわかる。キッチリと足並みの揃ったヴァイオリン、柔らかく響きわたるホルン、活発なファゴット、フルート、皮のティンパニ。どれも不足なし。
ライナー・ノート(宇野功芳)によると、2楽章はヴァイオリンに弱音器は使われていないとあるが、どうなのだろう? 使われているように感じるが気のせいか。
まあともかく、ヴァイオリンの優しくも哀切な旋律の豊かさは変わらない。
メヌエットは快速。駅のホームをすっ飛ばしていく快感がある。反復をしても4分36秒。ファゴットとオーボエがうまい!
終楽章も勢いがいい。右から切り込んでくる第2ヴァイオリンにハッとしたり、力強く打ちこまれるティンパニに快哉を叫びそうになったり。ラストはスマートにトランペットが締めくくる。
期待しないで聴いたので、得をした気分。
1986年6月、プラハ、芸術家の家での録音。
海へ。
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