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グールド、ベートーヴェン"ピアノ協奏曲3番"

2015.03.18 - ベートーヴェン





グールドのピアノ、バーンスタイン指揮コロンビア交響楽団の演奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番を聴く。

このディスクには、グールドがピアノでバーンスタインが指揮をした、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の3番と4番が収録されている。
この2曲は、中学だか高校だかのときにLPで聴いている。それは悪い印象ではなかったが、ストコフスキーとの「皇帝」ほどにはインパクトのあるものではなかったので、あまり注目はしていなかった。

それ以来に聴く。だから30年ぶり以上。こうして改めてCDで聴くと、いい。この3番もいいし、4番も捨てがたい。
今週だけで、それぞれ3回以上聴いているけれど、4番はわずかに弛緩した感じがするので、ここでは3番について書いてみたいと思う。

グールドはセッション、ライヴを合わせると、この曲を何度も収録している。そのなかではとりわけ、この盤と、カラヤンとのライヴ盤が有名なのじゃないかと思う。
カラヤンとのものは、実にまっとう、自然な力が漲っている演奏で、後年のグールドを思うといささか気が抜けてしまうような、そんな演奏であった。けなしているのではない。いい演奏なのである。

それに比べて、このバーンスタインとのものはどうか。これも、実にオーソドックスと言える。テンポは、かすかに遅いものの、水準値を超えるものではない。そしてピアノは抑揚がたっぷりとあって、音色も豊満である。
バーンスタインの指揮も鮮やか。ヴァイオリンが左から、チェロやコントラバスが右からと、はっきりと高低がわかれているところは、セッション録音ならではだと思うが、メリハリがあるから悪い気はしない。

バーンスタインはここではニューヨーク・フィルではなく、コロンビア交響楽団を振っている。このオーケストラの名前は、もちろんワルターの多くの録音で著名である。コロンビアというのは録音向けの名称であり、実態はロサンゼルス・フィルだとの話があるが、ワルターの録音に限ってはそうなのだろうと思う。ロケーションがビバリー・ヒルズとかなので。
しかし、当録音はニューヨークで収録されている。佇まいはワルターのコロンビア交響楽団を彷彿とさせるが、いくらなんでもロサンゼルスの70人だが80人だかをニューヨークに呼ぶのは、経済的にも時間的にも不自然であろう。それに加えて、技量の質が高いことも鑑みると、これはニューヨーク・フィルが実体なのではないかと想像する。

演奏に戻ろう。グールドは大きなうめき声をあげながらベートーヴェンを奏する。彼のピアノの音色は輝かしく、濃厚なニュアンスが漂っている。ベートーヴェンにしてはいくぶんロマンティックに寄っている気もするが、嫌味ではない。とても自然な弾きぶりなのである。

2楽章は、彼のピアノの厚い響きとオーケストラの弱音器との溶け具合がまことに心地よい。ベートーヴェンは、この曲ではまだモーツァルトやハイドンの影響を色濃く受け継いでいるが、それはそれでいい。若々しい抒情がたっぷりだ。

終楽章は、ピアニスト、指揮者ともに慎重かつ積極的。薄暗い情熱に包まれたこの音楽を、とても丁寧に応対している。技量の高さは言うまでもないが、音楽に対する誠実さがひしひしと感じる演奏だ。


1959年5月、ニューヨーク、30番街スタジオでの録音。




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本を出しました。
お目汚しですが、よかったらお読みになってください。







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Comment

とても素敵なベートーヴェン - yoshimi

こんにちは。
ベートーヴェンのソナタ集の方は、一風変わっていて面白いのですが、何とも言い難い演奏もあるので、好きなのは後期ソナタ3曲です。

協奏曲の方は、第1番はテンポが速すぎて好みとは違いましたが、バーンスタインと録音した第3番(と第4番)はとってもいいですね。
テンポも穏当で、コロコロと粒が転がるような軽やかなタッチの音は、透明感と瑞々しさがあって、とても綺麗です。
清々しいロマンティシズムがとても爽やかで、自然な弾きぶりというのは、全くその通りですね。
ブラインドで聴けば、グールドが弾いているとはわからなったでしょう。
カデンツァになるとちょっとメロウなところもありますが、時々左手がくっきり浮き上ってきたり、楽譜とは少し違う弾き方をしているのが、グールドらしいところでしょうか。
思いのほか気に入ってしまい、何度でも聴きたくなるベートーヴェンです。
2015.03.24 Tue 21:58 URL [ Edit ]

直球のベートーヴェン - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
グールドのベートーヴェンのソナタ集はいろいろ変わっていますよね。月光はとても速いし、熱情はやけに遅いし。後期の3つは同感です。素晴らしい。あと晩年に入れた葬送も好きです。
協奏曲の方は、皇帝なんかはかなり遊んでいて面白い演奏であります。ベストとなるかは?ですが。3,4はいいですね。ここでも4をあげようかと思いましたが、僅差で3がいいかなと。楽譜とちがうところは、わかりませんでした。。
適度な抒情味がステキな演奏です。
2015.03.26 11:46

カデンツァ - yoshimi

こんにちは。
Youtubeの音源でいうと、第1楽章カデンツァの終わり近くで(7:00~)、楽譜にないフレーズを加えてます。
楽譜では、終盤のTempo1(両手トリルで始まるところ)に入る直前の小節です。
https://www.youtube.com/watch?v=YhsnBrzGZ70

右手はスケール、左手は短いアルぺジョに続いて主題を弾いています。
左手パートは手持ち無沙汰な感じなので、グールドが付け加えたのでしょう。
突然回想される主題がくっきり浮かび上がってきて、とても印象的です。
1955年のウンガー&CBC響との演奏でも同じでしたので、昔からこういう弾き方をしていたようです。

第4番もいいですね。
(マリア・テレジアのような貫禄のある)”女王”というよりは、”プリンセス”みたいな若々しい感じがします。
難点は音質がちょっと悪くて、音がキンキンとして滲むような響きになることでしょうか。
音質も考えると、私も3番をベストにしたいです。
2015.03.26 Thu 19:54 URL [ Edit ]

なるほど。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
改めて、聴きました。
1楽章カデンツァの終わり近く、なんとなくわかりました。左手の低音部をゴンゴゴンゴゴンと弾いているところですね?
たしかに、最初聴いたときになかなかいいなあと思ったのです。でも、それがオリジナルだとはわかりませんでした。言われてみれば、効果的で、いい工夫なのではないかと思います。このカデンツァはベートーヴェンの作曲ですよね(問いかけばかりですみません)。そこに手を入れるということは、逆にベートーヴェンの曲を重んじたということと、理解しています。
やはり、グールドはいい。
教えてくれて、ありがとうございます。
2015.03.26 22:01

マイベストに近いかも - yoshimi

こんばんは。

>左手の低音部をゴンゴゴンゴゴンと弾いているところですね?
そうです。くっきりと主題が浮き上がって聴こえるところです。
その直前に短いアルペジオを挿入しているところが、また良いですね。

このカデンツァはベートーヴェンが書いたものです。
細かく楽譜とつき合わせて聴いてはいませんので、他の部分でも、変えたり挿入したりしているかもしれません。
もともとカデンツァはオリジナルで弾くものですから、ベートーヴェンのカデンツァを一部変えても良いのではないかと思います。
グールドのように、効果的な変え方なら、さらに良いですね。

グールドの第3番は、曲もカデンツァもとても面白く聴けるので、もしかしたら(一番好きな)カッチェンと同じくらいに好きかも知れません。
そういうわけで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ&コンチェルトの録音をまとめた6枚組のBOXセットまで注文してしまいました。(全部聴いたことはなかったので)
円安とはいえ、送料込みで2000円くらいですから、廉価盤はありがたいですね~。
2015.03.28 Sat 01:53 URL [ Edit ]

曲もいいです。 - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
当たりました(笑)
確かにカデンツァは本来は独奏者が即興で弾く類の音楽だと聴いたことがあります。ただ今の時代だと即興というのはなかなか難しいのでしょう。しかもベートーヴェン自らが作ったものがあるとなると、それを凌駕するのは並大抵ではないでしょう。
だいぶ以前、坂本龍一がベートーヴェンの3番コンチェルトについて、「若い頃はこの曲がとても好きだった。今思うと、なんでだろうと思います」というようなことを些か照れながら喋っていたのを思い出します。専門家にとってこの曲は、それほど高度ではないのか、と疑問に思っていました。
しかし、何度聴いてもこの曲は悪くないし、皇帝や4番に比べても劣らないと思います。

グールドのBOXセットですね。う~ん、いいかも。私もグールドはバッハのLPを除いては、バラバラと単品でしかもっていないのです。音質も昔よりよくなっているかもしれませんね。
2015.03.28 11:14

変わっているけど面白い - yoshimi

こんにちは。
グールドのベートーヴェンのBOXセット、届きました。
ピアノ・ソナタから順番に聴いていますが、いろいろ変わっていて面白いです。
あまり有名ではないベートーヴェン初期のソナタでも、思いのほか楽しめます。
昔は全く受け入れられなかった演奏でも、今は抵抗なく聴けるようになったので、年とともに人間が丸くなったのかも?

おっしゃるとおり、葬送ソナタはとてもいいですね。
特に第1楽章はしみじみとした味わいがあります。
同じく晩年に録音した第13番は、かなり風変わりでベートーヴェンを聴いているような気はしませんが、こんなに面白く弾ける人はいないでしょう。
とても楽しめるお買い得なBOXセットでした。
2015.04.11 Sat 13:14 URL [ Edit ]

グールドのベートーヴェン - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
グールドのベートーヴェンのBOXセット、よいですか。
私は断片的に聴いているので、全部きいたかどうか。。
後期の3曲の音が良くなっているといいですね。
葬送ソナタは、だいぶ前に聴いたきりですが、若い男の胸にぐさりと刺さった演奏です。彼の晩年のものです。グールドの演奏のクオリティは、活動初期から晩年まで、高いですね。曲によってはムラがあることもありますが、ピアノの素晴らしさは一貫している。
13番の演奏は忘れ去っています。
ああ、やはりBOX聴かないといけませんね!
2015.04.11 22:09

グールドのBOXセット - yoshimi

こんばんは。
BOXセットの後期ソナタ3曲は、56年録音にしては音質は良い方ではないかと思います。
私の耳では、NAXOSの復刻盤の音質に近いです。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00GS7TLIG/ref=dm_cd_album_lnk

グールドのソナタは、50年代、60年代、晩年と、演奏スタイルが違っていますね。
私の好みで言えば、50年代の後期ソナタと、晩年の葬送ソナタは、”良いベートーヴェンを聴いた”という感動があります。

60年代の演奏は、感動するかどうかは別として、
曲によっては風変わりな面白さがありますね。
(現代ものを除いて、グールドの演奏に否定的だったブレンデルが聴いたら、激怒しそうです...)
ベートーヴェンの初期のピアノ・ソナタがお好きなら、BOXセットで聴かれるのも良いかもしれません。

79年録音の葬送ソナタと第13番は、どうして演奏スタイルがこんなに違うの?と思うくらいです。

ご参考までに、グールドの第13番ソナタは、Youtubeに音源があります。
https://www.youtube.com/watch?v=0rGXuAnS4mA
2015.04.12 Sun 02:37 URL [ Edit ]

なるほど! - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
ご丁寧な説明、ありがとうございます。なるほど、概要はわかりました。
たしかに、年代によってグールドのスタイルは違うかもしれませんね。
後期の3曲は、速いテンポながら若さゆえの生真面目さを伴った情熱的な演奏だし、60年代はいささか遊んでいるような(やたらと速い「月光」「悲愴」、とても遅い「熱情)ピアノだし、晩年はひとつひとつの音を噛みしめるような味のある演奏になっているのかな、などと思っています。
ブレンデルが聴いたら激怒ですか(笑)。ブレンデルのベートーヴェンも曲によってはいいと思います、真面目ですよね。
「ハンマークラヴィーア」も後年CBSから発売されましたが、それも入っているのですか。別の会社のものは聴いていますが、CBSのはまだ聴いていません。
amazonでチェックしてみます!
2015.04.12 11:30

ピアノ・ソナタは抜粋盤です - yoshimi

こんにちは。
調べてみると、ピアノ・ソナタは6枚組が別にSONYからでているのですね。
私の買ったBOXセットは、ピアノ・ソナタがCD3枚になっている抜粋盤でした。熱情やハンマークラヴィーアは入っていません。
ピアノ協奏曲のCDも欲しかったので、ピアノ・ソナタが全部入っていなくても、私としてはOKです。
それに、ピアノ・ソナタ全部を聴くのは、さすがにかなりの気力(と許容力)がいりそうなので、今はちょっと腰が引けてます。

そういえば、「グレン・グールド演奏術」という本が出ていますね。
かなり専門的な分析本なのですが、パラパラと立ち読みしてみると、面白そうでした。
かなり分厚い本なので、そのうち時間ができたら読もうと思ってます。
2015.04.12 Sun 15:10 URL [ Edit ]

そういうものもあるのですね! - 管理人:芳野達司

yoshimiさん、こんにちは。
CD3枚組のもあるのですね。そのなかに後期の3つと「葬送」が入っているのは見識ですね。
ピアノ・ソナタ全曲を聴くのは大変です。去年に入手したポリーニ盤は途中で止まっているし、かなり前に買ったグルダ盤は全部聴いたかどうかさえ忘れ去ってしまいました。。
ゼルキンがCBSに入れた選集は聴けました。なぜでしょうか(笑)
「グレン・グールド演奏術」。昔からグールド関連の本はよく出ていますね。いくつかは読んだことがあるのですが、高価なものが多い。
チェックしておきます!
2015.04.12 16:47
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