グールドのピアノ、バーンスタイン指揮コロンビア交響楽団の演奏で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番を聴く。
このディスクには、グールドがピアノでバーンスタインが指揮をした、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の3番と4番が収録されている。
この2曲は、中学だか高校だかのときにLPで聴いている。それは悪い印象ではなかったが、ストコフスキーとの「皇帝」ほどにはインパクトのあるものではなかったので、あまり注目はしていなかった。
それ以来に聴く。だから30年ぶり以上。こうして改めてCDで聴くと、いい。この3番もいいし、4番も捨てがたい。
今週だけで、それぞれ3回以上聴いているけれど、4番はわずかに弛緩した感じがするので、ここでは3番について書いてみたいと思う。
グールドはセッション、ライヴを合わせると、この曲を何度も収録している。そのなかではとりわけ、この盤と、カラヤンとのライヴ盤が有名なのじゃないかと思う。
カラヤンとのものは、実にまっとう、自然な力が漲っている演奏で、後年のグールドを思うといささか気が抜けてしまうような、そんな演奏であった。けなしているのではない。いい演奏なのである。
それに比べて、このバーンスタインとのものはどうか。これも、実にオーソドックスと言える。テンポは、かすかに遅いものの、水準値を超えるものではない。そしてピアノは抑揚がたっぷりとあって、音色も豊満である。
バーンスタインの指揮も鮮やか。ヴァイオリンが左から、チェロやコントラバスが右からと、はっきりと高低がわかれているところは、セッション録音ならではだと思うが、メリハリがあるから悪い気はしない。
バーンスタインはここではニューヨーク・フィルではなく、コロンビア交響楽団を振っている。このオーケストラの名前は、もちろんワルターの多くの録音で著名である。コロンビアというのは録音向けの名称であり、実態はロサンゼルス・フィルだとの話があるが、ワルターの録音に限ってはそうなのだろうと思う。ロケーションがビバリー・ヒルズとかなので。
しかし、当録音はニューヨークで収録されている。佇まいはワルターのコロンビア交響楽団を彷彿とさせるが、いくらなんでもロサンゼルスの70人だが80人だかをニューヨークに呼ぶのは、経済的にも時間的にも不自然であろう。それに加えて、技量の質が高いことも鑑みると、これはニューヨーク・フィルが実体なのではないかと想像する。
演奏に戻ろう。グールドは大きなうめき声をあげながらベートーヴェンを奏する。彼のピアノの音色は輝かしく、濃厚なニュアンスが漂っている。ベートーヴェンにしてはいくぶんロマンティックに寄っている気もするが、嫌味ではない。とても自然な弾きぶりなのである。
2楽章は、彼のピアノの厚い響きとオーケストラの弱音器との溶け具合がまことに心地よい。ベートーヴェンは、この曲ではまだモーツァルトやハイドンの影響を色濃く受け継いでいるが、それはそれでいい。若々しい抒情がたっぷりだ。
終楽章は、ピアニスト、指揮者ともに慎重かつ積極的。薄暗い情熱に包まれたこの音楽を、とても丁寧に応対している。技量の高さは言うまでもないが、音楽に対する誠実さがひしひしと感じる演奏だ。
1959年5月、ニューヨーク、30番街スタジオでの録音。
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お目汚しですが、よかったらお読みになってください。
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