西村賢太の「けがれなき酒のへど」を読む。
日雇いの給料のほとんどを風俗に使う。足りなくなったら、大事に集めた古書を売って金にする。そして風俗の女を自分のものにしようとする。
モテない男の典型的な振る舞いである。ただ「サラ金は怖いから手をつけない」あたりは、妙なリアリティがある。騙されて消えられる、というオチはわかっているので新味はない。それが発覚したときの、主人公(作者)の乱れようは他人事ではないながら、笑える。
ところどころに、主人公が尊敬してやまない藤澤清造を描いたエッセイが挿入されており、これがいい。少しとぼけたような、人情味のある話で、書き手も上手く、藤澤の人柄の一端をあらわしているようで、興味深い。
しかし、藤澤清造全集はできるのだろうか。
マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏で、フランクの交響曲ニ短調を聴く。
この演奏はモントゥー/シカゴ響やクレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管、シルヴェストリ/フィルハーモニア管を聴くまでは、フランクの交響曲のマイ・ベストであった。
モントゥーたちの、手がこんでいながらもスケールの大きな演奏の前で、少し霞んでしまった感じである。
でも、このたび聴き直してみると、やはりいい。
スケールの小さい、いい演奏。この一言で尽きると言ってもいいかもしれない。スケールが小さい、というとたいていの場合、マイナス要因に思われる昨今において、異議を申し立てたい。
小さくてなにが悪いのか。
この設問に対して真正面から答えてくれるのが、マゼールである。クリーヴランド時代のマゼールなのである。いろいろと気になる演奏のなかで、このフランクを代表に立ててもそう見当違いではあるまい。
速めのテンポでもって、スイスイと進んでいく。音は短く刈り込まれ、ときおり鋭く響くティンパニの杭が音楽のガラをいっそう小さくしている。
金管楽器はとても高らかに鳴り響く。スケールの小さいなかに、この咆哮ぶりだから目立つのだ。ラストは、かなり速いテンポでもって、締めくくられる。ここでのトランペット、トロンボーンの小回りの冴えは、ちょっと類をみない。ここだけを切り抜いてみたら、トンデモ演奏に入れられてしまうかもしれない。ただ、通して聴けば、このやり方しかないという説得力がある。
マゼール箱、まだまだ続く。
1976年の録音。
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