村上春樹の「騎士団長殺し」を読む。
「妻と別れてその谷間に住んでいる八ヶ月ほどのあいだに、私は二人の女性と肉体の関係を持った。どちらも人妻だった。一人は年下で一人は年上だった。」
これは、妻から離婚を申しだされ、自ら家を出た男を主人公とするファンタジー小説。
著者が以前に書いた複数巻の小説である「1Q84」や「海辺のカフカ」に比べると、ストーリーがシンプルで読みやすい。日常生活の場面が8割くらい、幻想世界というかスピリチュアルなシーンが2割、といったところ。
主人公は36歳の肖像画家。村上の他の作品の例にもれず、モテモテである。片田舎のファミレスでひとり食事をしていたら、いきなり見知らぬ若い女が対面に座り、そのままラブホテルへ直行、などというシーンもある。うらやましいにもほどがある。
なんて冗談はさておき、物語は、主人公が仮住まいしている家の主人が描いた日本画がモチーフとなっている。そこに謎めいた少女と、これもワケあり風な小金持ちの男が絡んでお話は膨らんでいく。上巻はあやがあって面白い。「鈴」が聴こえる場面などはスリルがあるし、どうなるのか予測がつかず、ワクワクさせられる。
ただ、下巻はいささか退屈、とくに最後のほう、少女が関わるシーンは、冗長だし、つっこみどころ満載だと感じた。
前作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」のほうが、好み。
ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団の演奏で、シベリウスの交響曲6番を聴く(1997年6月、フィンランド、ラハティ、クロス教会での録音)。
いままでこの曲を何度か聴いたことがあるが、この演奏でやっとそのよさがわかった。なんてチャーミングな音楽なのだろう。ニ短調とあるが、全体を通しては、さほど暗いといった感じはしない。
1楽章の主題部で、フルートとオーボエが奏でるメロディーは天空を舞うよう。ラハティの、ひんやりとした弦楽器もいい。幸福感に満ち満ちている。
2楽章はアレグレット。重厚で、しっとりとした音楽。最初のほうで、木管楽器と、それに呼応するハープがなんとも可憐。ラスト近くで、ザワつく弦楽器が幻想的。
3楽章は実質的にはスケルツォなのかな。凍りついた青い炎みたいな佇まいが、シベリウスらしいような気がする。
4楽章も速い。弦の響きはコクがあって美しい。ヴァイオリンとチェロとが左右から聴こえ、トロンボーンとティンパニがじわじわと迫り、クライマックスを築く。終結部は弦楽器のうねるような調べから、だんだんと音量が下がっていき、とても穏やかに締めくくられる。
パースのビッグムーン。
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