ヘミングウェイ(高見浩訳)の「世の光」を読む。
これは、ある町をぶらりと訪れた若者ふたりが、駅の待合室で人びとと交流した様子を描いた小説。
話の中心は若者たちではなく、待合室にいたでっぷりと太った娼婦の自慢話。見た目、体重160キロはあるだろう淑女は、知らぬもののいないほどの有名なボクサーは、じつは自分の男だったことを延々と語る。みんな呆けた表情で聞き入っている。その話が佳境にはいったとき、別の娼婦が待ったをかける。でたらめばっかり言って、この恥知らず。彼は私の男だったのよ。そして彼女も彼の話を始める。。
ほとんど内容のないお話。ヘミングウェイの短編には、こういうものが多いようだ。
全ての物事に意味を求めちゃいけないよ、とは大学生の頃にいがらしみきおから教わった。当時は斬新だと思ったものだが、今思えば世間は意外なほど無意味なものに満ちている。
バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの演奏で、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)の「展覧会の絵」を聴く。
ニューヨーク・フィル時代のバーンスタインが好きだ。とくに1950年代から1960年代半ばくらいの頃。なんといってもイキがいい。生きるヨロコビや哀しみを真正面からストレートにぶつけてくるから、気持ちがいい。
そして特筆できるのは、CBSの録音。ウチの廉価な装置だからそう感じるのかもしれないが、現在の録音と比べてもひけをとらないくらいにクリアーだ。ステレオ初期のこの時代、リヴィング・ステレオ(RCA)、デッカも素晴らしいが、CBSはそれらに劣らない。演奏そのものの価値もさることながら、録音技術においても今じゅうぶんに通用するから、現役のディスクであり続けられるのだろう。
さて、バーンスタインの「展覧会の絵」は、オーケストラは雄弁でありつつも、クールな演奏だと思う。オーケストラをどのように鳴らすかに工夫を置いたからかもしれない。どの場面においても、副声部がキッチリと聴こえるので、全体の見通しがいい。
いまさらだけど、ラヴェルの編曲は秀逸だ。冒頭をトランペットでキメたことが勝因なのじゃないだろうか。
1958年10月、ニューヨーク、ブルックリン、セント・ジョージ・ホテルでの録音。
冬。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR