ポール・メイエ(Cl) ジンマン指揮イギリス室内管/クラリネット協奏曲集カフカの「変身」(丘沢静也訳)を読む。
最初にこの小説を読んだのは学生時代で、それは新潮文庫だった。それから約20年たった今読み返してみると、後半部は忘れていたものの、全体を通して感じられる閉塞感は昔の通りだった。
グレーゴルは甲羅が合って足が何本もあることから、ムカデ状の生き物になったと想像するが、それにだんだんと感情移入していき、やがて周囲の人間よりもむしろこの生き物のほうに人間らしさを感じていくわけ。
グレーゴルは、虫になったおかげで会社に出勤できなくなったわけだが、スゴイのは、定刻を過ぎるやいなやすっとんで家にやってくる上司。
厳しいのか過保護なのか…。
ブゾーニが「クラリネット小協奏曲」を作曲したのは1918年、第一次大戦のさなかであり、彼が当時住んでいたチューリヒはトーンハレ管の首席奏者を念頭に置いたものだったという。
冒頭の、なんとも牧歌的な響きが印象的で引き込まれるが、その後は手を変え品を変え、さまざまな場面がひっきりなしに入れ替わる。後期ロマン派のむせるような甘いメロディーが鳴ったかと思えば、お通夜のような神妙なシーンになったりと忙しい。
クラリネットの独特のふくらみ、そしてコミカルなタッチが硬軟おりまぜて色彩豊かに描かれる。
メイエのテクニックに不安はまったくない。じつになめらかな仕上がりだ。
全体で10分程度の音楽だが、密度の濃い時間を味わうことができる。
1992年3月、ロンドンでの録音。
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