錦糸町楽天地シネマズで、クリント・イーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」を観る。
これは、イラク戦争に出征して狙撃手として名を成したものの、帰国後に心を病むアメリカ人青年の半生を描いた映画。
アメリカが正で、イラクが悪、という図式がじわじわと底辺に流れている。これは何を意味するのか。
というのは、過去に制作した「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」という2部作で、戦争をあれほどの深さで描ききったイーストウッド監督の手によるものだから、なにか裏があるのだろうと勘繰ってしまったのだ。が、考えても妙案は出ない。
となると、これはアメリカの青年の伝記を題材にするに当たり、その舞台がたまたま戦争だった、としか考えられないのである。
ともあれ、最後は感動した。それは、ひとりの男の生活に対してであって、イデオロギーに対してではない。
ラザール・ベルマンのピアノで、スクリャービンの「幻想曲ロ短調」を聴く。
ベルマンと言えば西側に出たときに、ギレリスが、私とリヒテルの四本の手を持ってしても彼には敵わない、というようなことを言ったために、大変な評判になったピアニストだ。
その頃に、カラヤンと入れたチャイコフスキーの協奏曲もまた、大変な話題になった。
そういうことがあり、日本ではヴィルトゥオーソのレッテルを貼られた。これは彼にとって、得だったのか損だったのか。日本人のわれわれにとっては、彼をキチンと評価することが難しかったから、損をしたと言うべきだろう。なかには、彼の実力を知っていた人も、もちろんいるだろうが。
このスクリャービンは絶品だ。音がこれ以上ないくらいにこなれており、深い。
ミケランジェリやグールドやホロヴィッツの、音の美しさとは違う。ベルマンの音は優しい。暖かく包み込んでくれるような、それは音色である。適度に湿り気があり、潤いのある音は、スクリャービンにふさわしい。このディスクには他に、リストとシューベルトとラフマニノフが収録されている。そのどれもが、ロマンティックな音楽であるし、ベルマンの音はこれ以上にないくらい適っている。
録音も、十全。
スクリャービンはときに神秘主義作曲家などと言われることがあるが、広義には後期ロマン派であろう。それ以外の形容詞は見当たらないな。
1989年11月28日、ルガーノ、スイス・イタリア語放送オーディトリアムでのライヴ録音。
おでんとツイッターやってます!八甲田その20。
本を出しました。
お目汚しですが、よかったらお読みになってください。
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