「西原の部屋」は、西原理恵子の対談集。相変わらず下品な会話が面白い。
いまをときめく(故・やなせたかしもいるが)面々との対談は、相手によって態度が変わらない。一貫してお下劣なところがいい。
これは真面目な話なのだが、リリー・フランキーとの話で、本当に才能があるやつには敵わない、というくだりがある。そのまま引用する。
リリー「オレの野球チームに、まっちゃんというすごくうまいのがいるんだけど、彼は、高校で四番を打って甲子園でベスト8。中大でもクリーンナップで、実業団からスカウトが来たのを蹴って役者になった。プロ野球をあきらめた理由が今巨人にいる小久保(裕紀)なんですよ。当時の青山学院の四番が小久保で、彼が青学の厚木の合宿所から、八王子の中大の合宿所まで飲みに来たんだって。みんなでビール二十本くらい飲んで、小久保は、『オレ、飲みすぎたから、グラウンド貸してくれるか』って言って、二十周走ってきて、また飲んで、『じゃあ、オレ、帰るわ』って、厚木まで二十五キロ走って帰ったらしい(笑)。こんなヤツと野球で勝負しても勝てないと思って役者になったらしい」
少し盛っている気はするものの、プロ野球選手というもののすごさを改めて教えてくれるエピソードだ。
オーマンディの指揮で、R・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」を聴く。
この曲は第二次世界大戦中に書かれた。
弦楽5部による編成である。23名の弦楽器奏者のために書かれているが、通常の弦5部ではなく、各奏者が独立した23のパートを演奏するよう、23段のスコアに書かれている。
だから、弦楽合奏の音楽としては、とても広がりのあるものとなっている。
(吉田秀和風に言えば)去りゆくヨーロッパの伝統にたいしてのレクイエムとも位置づけられるこの曲は、名曲でありながら、案外録音は少ないようだ。演奏が難しいのだろうか?
シュトラウスを得意としていたらしいオーマンディも、この曲を録音したのは本盤だけである。
結論を言うと、これは名演。
基本的に洗練されていて上品。艶やかな大理石のように緻密な合奏のなかから、微妙なポルタメントの味付けや、淡いヴィヴラートのスパイスが絶妙に浮かび上がる。いたずらに悲劇的なところを煽らないところがいい。淡々といていて、濃密。そしてロマンティック。
しかしなんとっても、聴きどころは弦楽器そのものの美しさだ。しっとりとした木質の手触りは、合奏でもソロでもしっくりと手に馴染むかのよう。
今更だが、こんな音を出せるオケは、世界中を見渡してもそう多くはないだろう。
ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
1978年2月、フィラデルフィア、スコティッシュ・ライト・カテドラルでの録音。
晴れた休日。
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