
過日、大隅智佳子さんのソプラノ・リサイタルに足を運びました(2020年10月31日、高津市民館大ホールにて)。
彼女の歌、何年か前の「海の日コンサート」で聴いているのだけど、そのときはガラ・コンサートのため出演者が多くて、よく覚えていなかった。
だからこの日が意識して聴いた初めての機会。控えめに言っても、衝撃的に素晴らしい体験でした。
最初のモーツァルト「偉大な魂、高貴な心を」で勝負あり。
ピンとまっすぐに伸びた高音は、高山の岩清水のような透明感を湛えていて、曲の表情によって重力と弾力の綾を巧妙に、かつ自然に織りなしていました。
このことは、以降の演目においても基調となっており、個々の楽曲において味つけを薄めにしたり、心持ち濃い目にしたりと、おいしい変化をつけていました。
とりわけ、「からたちの花」はよかった。
西洋音楽中心のプログラムに数曲だけ日本モノが入ると映えることが多いですが、この晩のは、そういったことを超えて、歌声が琴線の深くに届きました。可憐な白い花が眼前に、たしかに浮かびました。
これはさしづめ、松茸のお吸い物。
もう一つは、「柳の歌」。
この曲、舞台を観ながらだと感情移入しやすいけど、単体で取り出されると往々にして退屈しがち。
でもこの演奏は終始張り詰めていた。王侯貴族の佇まいに匙一杯の感傷をふりかけたような歌声は、うららかな空気を乾いた芳香で満たしつつ姿を現してきました。
これは火加減が巧妙な、仔羊のロースト。
ピアノは、歌手にぴったりと柔らかく寄り添ったもので、とくにピアノ〜ピアニシモの響きがまろやかだったし、音量の塩梅もしっくりきました。
そんな堂々とした演奏をする反面、ステージ・マナーがずいぶんと低姿勢。なので、思わず見入ってしまいました。
アンコールは彩り豊かなフルーツ・パフェ。
最後まで豪華なフルコース、おいしくいただきました。
ロビーで何人かの顔見知りに遭遇。
みんな旨いものが好きなんだな。
大隅智佳子(ソプラノ)
松田祐輔(ピアノ)
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