南紫音は2005年のロン=ティボー・コンクールで入賞して以来、注目されているヴァイオリニスト。
このリサイタルは「ランチ・タイム・コンサート」と銘打っていて、休憩なしの30分程度の短いもの。
ただプログラムななかなか凝っていて、聴きごたえがあった。
メシアン 主題と変奏
イザイ 子供の夢
ラヴェル ハバネラ形式の小品
ラヴェル ツィガーヌ
メシアンの曲は、点描的なピアノの伴奏に乗って、ヴァイオリンが鋭い線として切り込むような音楽。色彩豊かである。南のヴァイオリンは、太くてたくましいものの、やや透明感に欠けるというか、ザラついた感じの音だった。これだけを聴いたならば、数日で忘れるところ。最初の演目だからそういう状態であることが、次の曲を聴いてわかった。
イザイの曲ではふんわりと柔らかい音がまろやかに響きわたり、まさに夢心地。いつまでも聴いていたいヴァイオリン。
ハバネラ形式の小品では、ヴァイオリンが軽やかに舞う。キレのいい弦の音がホールに響きわたるところは美味。
そして最後のツィガーヌ、これは名演。
冒頭の野太い、そかも厚くて柔らかな音が響き渡ったときに勝負は決まった。こんなに豊満なラヴェルを聴いたのは初めてかもしれない。音楽はその後、手を変え品を変え、めくるめく技巧の世界に飛翔するが、南はそれらをいとも簡単に弾ききる。高音はスラリと伸びて濁りがない。ピチカートは重みがあって明快。大須賀のピアノはバランスがいい。ラストの推進力は、打ち上げ花火の最後の玉のよう。脳が痺れた。
この曲、CDではいろいろな演奏を聴いてきたが、正直言って、あまり面白い曲とは思わなかった。でも、この演奏を聴いて印象は変わった。生演奏、というアドバンテージはあるものの、この演奏はいままで聴いたツィガーヌのなかで最高の出来栄えだと思う。
トッパン・ホールに来るのは初めて。400席程度の規模なので、このようなリサイタルにはうってつけ、どの席に座っても満足できるだろう。音響もいい。
南紫音(ヴァイオリン)
大須賀恵里(ピアノ)
2013年6月8日、トッパン・ホール。
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