吉田秀和が小林秀雄を語っている文章を見つけた。
あまりに面白いので、少し長いが引用してしまおう。
『数年前、大磯の大岡昇平さんのお宅で、小林さんにお目にかかった。少し酒が入ると、小林さんが、レコードをききたがり、「名人をきかせろ、名人をきかせろ」と言った。大岡さんが、「そう、何があるかな」といって、探したが、なかなかうまいのが出てこない。失礼だと思ったが、私が立って、大岡さんのコレクションをひっかきまわしてみると、いろいろモオツァルトの珍らしい曲とか何とかはあっても、名人の名演と呼べるほどのレコードはほとんどない。やっと、オイストラフの独奏したシベリウスのヴァイオリン協奏曲がみつかったので、それをかけると、小林さんはとても陽気になり、一段と早口になって、「こうこなくっちゃ、いけません」とか何とか言いながら、真似をしたり、陶然とききほれたり、それを見ているのは、本当に楽しかった』
尊敬する友人が「名人」を注文したら誰のディスクをかけるか。思いを巡らすのは楽しい。
ジュリーニ指揮ロサンゼルス・フィルの演奏で、ヴェルディの「ファルスタッフ」を聴く。
このディスク、お茶ノ水のディスク・ユニオンに中古にしても安いくらいの廉価で出ていたので購入した。なかなかうまい話はないもので、2枚目にモーツァルトのピアノ協奏曲が収録されていた。ディスクにはしっかり「VERDI」と書いてあるのに、中身が違う。なるほど、だから持ち主は手放したのか。中古屋は盤面は見ても中は聴かないからわからない。
仕方がないので、後半は手持ちのLPを聴いた。
このオーケストラがやるオペラの録音は、これしか知らない。カラッとしてドライな音色が、演奏のスタイルに合っているように感じる。アンサンブルはジュリーニが丹念に訓練をしており、とても精緻な仕上がりとなっている。パンチも、きいている。
歌手のほとんどは当時、このオペラを歌ったことのないメンバーだったという。みんなアクが少なく、オーケストラの楽器のひとつみたいに歌っている。トスカニーニみたいな演奏を期待すると肩透かしをくらうかもしれない。ただ、歌手を含めたアンサンブルの面白さといった意味では、これはとても優れていると思う。
ソリストでは、ナンネッタを歌うヘンドリクスがいい。可愛らしくて品のあるソプラノだ。
合唱の出番はあまり多くないが、3幕の妖精の歌がとても精妙。鍛えられている。
ジュリーニはこのライヴ録音のあと、1982年6月にコヴェントガーデンで、1983年1月にはフィレンツェでそれぞれ「ファルスタッフ」を指揮している。ブルゾン、リッチャレッリ、ヌッチは固定で出演したという。結果として、彼にとってイタリア・オペラの集大成とも言うべき仕事になった。
レナート・ブルゾン
カーティア・リッチャレッリ
レオ・ヌッチ
ルチア・ヴァレンティーニ=テッラーニ
バーバラ・ヘンドリックス
ダルマシオ・ゴンザレス
マイケル・セルズ、他
ロサンゼルス・マスター・コラール
合唱指揮:ロジェ・ワーグナー
1982年4月、ロサンゼルス、ミュージック・センターでのライヴ録音。
おでんとツイッターやってます!冬の山。
PR