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クーベリックのワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

2007.08.04 - ワーグナー
wagner

ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団・合唱団
ザックス:トマス・スチュアート
ポーグナー:フランツ・クラス
ベックメッサー:トマス・ヘムズリー
ワルター:シャンドル・コーンヤ
ダヴィット:ゲルハルト・ウンガー
エーファ:グンドゥラ・ヤノヴィッツ
マグダレーネ:ブリギッテ・ファスベンダー



今週は珍しく仕事が忙しく、慌しい1週間だった。自ら小ミスも乱発、慌しさに輪をかける結果になったのは痛々しかった。
そんな日常生活をよそに、今週はさまざまな分野の人が相次いで亡くなった。ベルイマン、小田実、アントニオーニ、阿久悠。みんな、70歳を過ぎているからしてそう驚きではないものの、小田や阿久なんて、もう70を過ぎていたのかという驚きはあった。
つまり、自分が20歳前後のときの彼らの年齢が焼きついているようなのだ。20年前の記憶を今も強く引きずっていることになる。確かに当時は、いまに比べれば本をよく読んだし映画も観たし、音楽も聴いていた。けれど量よりもやはり質なのであろうな。乾いた砂に水がしみこむように、良いことも悪いこともどんどん吸収していいったわけだ。それが今じゃ泥沼に雨という有様。
いいんだか悪いんだか…。


クーベリックのワーグナーは、ブログ仲間の多くの方が激賞されているので、是非聴いてみたかった。
ここ1ヶ月は「マイスタージンガー」漬け状態である。といっても多くは通勤時間にipodで聴いているので、通して聴いたのは数回だけである。
思い起こせば、この曲をまともに聴いたのは、バイロイトのシュタイン以来である。まともと言ったって、ラジオの前でゴロゴロ寝そべって聴いていただけである。

歌詞を見ないで聴いていたので、誰がどこを歌っているのかいまひとつわからなかったが、これではもったいないので、歌詞とオペラ解説書を引っ張り出して聴いてみる。
「トリスタン」は半音階を多く採用した音楽として知られているが、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、全音階がほとんどであり、かつ多くの部分にハ長調を用いているらしい。そういう点においても「喜劇」と呼ばれるのかもしれない。
他の全曲盤を知らないので、演奏の比較はできないのであるが、このクーベリックの演奏は、ずっしりとした手応え歯応えを感じるものだ。
まずオーケストラがいい。バイエルン放送饗は、各パートのちから具合のバランスとか、音色の統一感が絶妙なオーケストラだと思うが、ここでもそれは充分に発揮されている。ようするに安定感が抜群だ。
歌手陣も同様に、全体的にバランス感覚に秀でている。みんなオーケストラと溶け合っていて、違和感を感じる声は見当たらない。ザックスのスチュアート、エーファのヤノヴィッツ、ベックメッサーのヘムズリー、ワルターのコーンヤ、素晴らしい。

部分的には、第3幕の5重唱から行進曲と合唱に至るところ、静謐で繊細な場面から打って変わって勇壮感を帯び高揚してゆく場面はすばらしく感動的である。ここではバイエルン放送合唱団の力強さが光る。
あと第2幕の最後での喧嘩のシーンがすごい。リュートの伴奏からベックメッサーが歌い始め、やがて周囲のメンバーが入り込んできて、どんどん音量も上がっていき、テンポが速くなっていって、合唱も入り交ざり壮大な対位法でクライマックスが築きあげられてゆくところ、すさまじい盛り上がりである。ここでも歌手はもとより、合唱団の骨太の声がとても味がよく、効果をあげている。
当然のことながら指揮者の統率力も非の打ち所ないもので、この圧倒的な量といかにも複雑に入り組んでいそうな音を、うまいこと紡ぎ合わせてひとつの大きな流れを作っている。
また、このCDでは録音の良いことも特徴だ。大編成でありながら恣意的な味付けを感じることのない、自然で広がりのある音をじゅうぶんに堪能させてくれる。

ここ何日か、歩きながら第2幕の最後の部分ばかり繰り返し聴いて、ひとりほくそ笑んでいるのだ。
あまりに素晴らしいので、ちょっと気を緩めるとおしっこをちびりそうになる。大人だから実際にそうはならないが、あと20年もしたら本当にちびってしまうかもしれないな。
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Comment

無題 - bitoku

吉田さん、こんにちは。

クーベリックのこの盤は聴いたことがないです。

”マイスタージンガー”はEMIから出ていたフルトヴェングラーの43年バイロイト盤、70年代カラヤンのドレスデン国立オケのEMI盤とレーザーディスクでシュタインのバイロイトのものを持っています。
トリスタンのような悩ましい半音階のライトモチーフがないので”サッパリ”とした感じで良いですね。

ワーグナーは大好きで聴き始めると良いのですが、長丁場なので全曲聴くのに根性が要ります。

クーベリックのものもオケ、歌手陣ともに良さそうですね。

>あまりに素晴らしいので、ちょっと気を緩めるとおしっこをちびりそうになる。

これを読んでますます欲しくなりました。(笑)

欲しいけど、輸入盤でも結構値が張るんですよねオペラの組物って。。。

2007.08.04 Sat 18:37 URL [ Edit ]

Re:bitokuさん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。
「マイスタージンガー」は、実質的にはこの盤が初めて聴くようなものなのですが、演奏もいいせいか、何度聴いても飽きません。回数を重ねるごとに面白くなっていきます。
bitokuさんお薦めのフルトヴェングラー、カラヤン/ドレスデン、シュタイン、どれも聴きたいですね。特に、シュタインのは映像付きなので狙っています。
解説を読むまでは意識しませんでしたが、全音階中心の音楽は、斬新さはないかもしれませんがしっくりときます。
他の演奏は語れませんが、このクーベリック盤はかなりいい演奏なのではないかと思います。お薦めです!
2007.08.04 22:06

無題 - rudolf2006

吉田さま こんばんは

でましたね、クーベリックの『マイスタージンガー』、私はレーベルの違うものを2組持っています、爆~。歌手がまだ若手の頃の録音で、レヴェルが揃っていますね。クーベリックは不思議な指揮者だと思います。何か特別なことをやっている感じはまったくしないんですが、聴いていると落ち着くんですよね。

懐かしい方々が亡くなっていきますね、吉田さんが仰るように、記憶はどこかで止まっている感じがします。私も、もうすぐお漏らしをしてしまうかも~、爆~。

ミ(`w´彡) 2幕の最後、3幕のザックスとエーファの二重唱から5重唱、それから3場に入っていくところ、良いですね~
2007.08.04 Sat 21:33 URL [ Edit ]

Re:rudolf2006さん、こんばんは。 - 管理人:芳野達司

コメント、ありがとうございます。
クーベリック盤はレーベル違いで2種類出ていたようですね。両方はわかりませんが、このCALIG盤は録音も良く、とても充実した内容です。
歌手はみんなすばらしいし、合唱も迫力があり、オケはとても安定していて、全体のバランスがよいですね。クーベリックが不思議なのは、なにか変わったことをしていないのに、圧倒的な充実感を感じさせてくれるところです。これはある種指揮者に望むべきあり方なのかもしれませんね。

小田や阿久が亡くなるのですから、月日の経つのは存外に速いということでしょうか。自分も歳をとるはずです…。
2007.08.04 22:06

無題 - 凛虞

吉田さん、こんにちは!
クーベリックのこの録音は、スケールが大きいにもかかわらず、この楽劇を肥大化することなくアンサンブル・オペラとしての美感を最大限に引き出した名演と思います。ワルター役のコーンヤ(確かハンガリー人?)は、ローエングリンを得意とした歌手ですが、訛を含んだような発声がこの2つの役が異郷の地からやって来たという想定を思い起こさせて妙と思います。
些細な箇所(?)ですが、ヤノヴィッツとステュワートの名歌唱と思われるところを挙げます。第1幕第1場でエヴァが「そして花嫁が手ずから、彼に勝利の枝を手渡すのです」と歌う場面。ワーグナーはト書きに「熱心に」と記しているのですが、これほど可憐かつ自分の意志(ワルターと結ばれたいということ)を一瞬で歌いきった歌唱を他に私は知りません。
そして、第3幕第4場、エヴァを諦めわざと不快に「靴というものも本当に厄介なものだ!」とザックスが歌うシーン。ステュワートもクーベリックも渾身の力を込めており、本当に感動的です。この演奏を聞くと、ワルター出現前のエヴァとザックスの精神的な関係を痛感しないではいられません。たんなる「喜劇」ではなく、「マイスタージンガー」作曲当時頓挫していた「リング」の一つの主題である「愛の断念」がここにも隠されていたのかなぁ…と思ったりもしています。
勿論、他にも第3幕前奏曲からザックスのモノローグなど、素晴らしい場面が多いのですが、何といってもこのクーベリック盤の特徴はこの曲を長大と感じない魔力があることと思います。
長文失礼致しましたm(_ _)m
2007.08.05 Sun 08:40 URL [ Edit ]

Re:凛虞さん、こんにちは。 - 管理人:芳野達司

コメントありがとうございます。

第3幕前奏曲からザックスのモノローグの場面、第3幕第4場というところ、ききすごしているだけで、その面白さをわかっていないところです。
重厚で長いばかりではなく、ザックスの諦念が物語の重要な軸になっているところ、まだじゅうぶんに理解してはいないのですが、これから歌詞ともども聴く過程でわかってくるかもしれません。そのあたりが楽しみであります。
いづれにせよ、このクーベリック盤はかなりレベルの高い演奏であることは、他の演奏はよく知らないにせよ確信しています。
2007.08.05 21:45
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