アルフレート・ブレンデル(Pf)宋文洲の「社員のモチベーションは上げるな!」を読む。
「やる気のない人を放っておこう。やる気のない部下を許そう。これが本書の"本質"です。喉が渇いたら、馬は自ら水を探します。そのときは、馬が真剣に、水の匂いを嗅ぎ分け、道を探すのです。水がいらない馬を、川に引っ張っていくことは、ムダなことであり、自己満足にすぎません。」
同感。
題名については、この「まえがき」に要約されてしまっているので、ここだけ読んでも事足りてしまう気がしなくもないが、本文も示唆に富んだ文章が多い。これはオススメ。
小林秀雄が「モオツァルトのかなしさは疾走する。涙は追いつけない」と書いたのは、4番の弦楽五重奏についてだった。これはト短調、ピアノソナタはイ短調であるから調性は違うものの、ソナタについてもこのレトリックがあてはまるのじゃないかと思っている。いつも聴いている、リパッティとバレンボイムの演奏は、まさにかなしさが疾走するというような速さがある。快速なテンポといい、屹立した決意のような強い打鍵といい、訳もわからず何者かに追いかけられているような、切羽詰まった悲劇の味わいが濃厚なのである。
ブレンデルのピアノは、一見、とても穏やか。小林の言葉は当てはまらないように思う。かなしさとかうれしさを超えて、たんたんとピアノを奏でているといった風情。柔らかいタッチでしっとりとした音色が美しすぎる。このピアニストによるモーツァルトの協奏曲は、少し重いのであまり聴かないが、ソナタは重量感がむしろ心地よく感じるのだ。とても印象深い演奏である。
1982年3月22-27日、イギリスでの録音。
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