川上弘美の「花野」を読む。
これは、主人公の青年が、5年前に死んだ叔父と会話する話。
すすきやかるかやの繁る野原を歩いていると、おもむろに叔父が出てきて、世間話をする。この場所にくるのは半年か一年に一度くらいで、そうすると叔父があらわれる。
ある日、叔父はいつもよりもはっきりと見える。ここにあらわれるのは最後だと告げられる。そして、なにか願い事はないかと尋ねられ、青年は一緒に午餐をしたいと希望する。
並んだ料理は、あわび、海鼠、葛きり、ざくろ、そら豆。あらかたは青年が平らげ、そら豆だけを口にした叔父は満足そうに消えてゆく。
彼岸の情緒を水彩画で描いたようなこれは短編。
ヨーロッパ室内管弦楽団のメンバーによる、メンデルスゾーンの「八重奏曲」を聴く。
弦楽奏者8人によるオリジナル版であるにもかかわらず、とても響きが厚い。ソロの場面ではさすがに聴き分けられるが、合奏はトルクが高く、広がりがある。
奏者は均等と言っていいほど技量が高く、バランスに優れている。この曲においては第一ヴァイオリンの腕前が演奏の善し悪しを大きく左右するが(ベルリンのズスケの奇跡のような演奏!)、ここではホープは合奏団のひとりというスタンスを保っているので、第一ヴァイオリンの水際立った立ち回りは見せていない。
そういうこともあるせいか、悪い演奏ではないものの、どこか物足りない印象を受ける。
ホープが、ヴァイオリン協奏曲でみせたようなケレン味を出していたならば、もっと面白い演奏になったのじゃないかと思う。
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ヨーロッパ室内管弦楽団員
ルーシー・グールド(2nd.vn)
ソフィー・ブザンソン(3rd.vn)
クリスティアン・アイゼンベルガー(4th.vn)
パスカル・ジーファル(1st.va)
ステュアート・イートン(2nd.va)
ウィリアム・コンウェイ(1st.vc)
ケイト・グールド(2nd.vc)
2007年6月、グラーツでの録音。
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