川上弘美の「夏休み」を読む。
これは、夏休みのアルバイトに梨園で働く若者と、3匹の梨の妖精との邂逅を描いた話。
一匹だけ他とは違う行動をとる妖精がいる。とてもおしゃべりだけど気難しい。ある日、若者に振る舞いを咎められた妖精は、家を出て行ってしまう。数日ののちに後悔を引きづりながら帰ってきたときの、懐かしい匂いがとてもいい。夏の匂い。そして妖精の会話が可愛らしく、愛さずにはいられない。
これは、夏休みの儚さを巧みに描いた短編。
ダニエル・ホープのヴァイオリンで、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調を聴く。
ホープは、メンデルスゾーンの師であるカール・フリードリヒ・ツェルターの末裔であるとのこと。だからというわけであろう、これは初稿版による演奏と謳ってある。こだわりを感じないわけにはいかない。そのとおり、随所で聴きなれないフレーズが現れる。最初に聴いたときは、なんてラディカルな演奏なんだと思ったが、版が違うのであれば納得。大筋は同じものの、細部が異なるテイストは、シューマンのシンフォニーと似ているかもしれない。
ホープのヴァイオリンはとても情熱的。音は太めでしっかりしていて、安定感がある。どの楽章も聴きごたえがあるが、ことに終楽章のラストの追い込みは素晴らしく、版の違いを度外視してもトップクラスの出来じゃないかと思う。
ヘンゲルブロックのオケは、ピリオド風で、せかせかしているぶん推進力が強い。こちらもユニークな演奏だ。
ヘンゲルブロック指揮ヨーロッパ室内管弦楽団
2007年6月、グラーツでの録音。
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