ドストエフスキー(亀山郁夫訳)の「カラマーゾフの兄弟」4部を読む。作者は後日談も書いているが、このお話はいったんこれで終了。
4部の内容は、大きく3つに大別される。
ひとつは、アリョーシャと中学生たちとの邂逅。学業成績がよく、かつひどく突っ張った少年に対し、アリョーシャが啓蒙し友情が芽生える、などといった話。ヘッセの小説みたい。面白い。143ページ。
ひとつは、イワンとスメルジャコフとの対話劇。ドミトリーのかつての婚約者カテリーナや、アリョーシャの恋人リーザなどが登場し、また事件の核心的な対話も挿入される。いろいろなものがごったに盛り込まれていて難解。266ページ。
最後はドミトリーの父親殺し裁判。検事補と弁護士が争う法廷劇でありシンプル、読みやすい。261ページ。
なかでは最後の第12編「誤審」はわかりやすい。これは、心理学の名手とされるイッポリート検事補と、天才的な弁護士フェチュコーヴィチとの弁論大会。茫洋としていた父親殺しの現場が、ふたりの推理によって陽に照らされる。
ことにイッポリートの弁論はじつに80ページにも及んでおり、まるでこの小説の抜粋版のよう。過去に読んだ事柄が、違う言葉で生き返る。いっぽう、フェチュコーヴィチは「疑わしきは罰せず」式の論法でもってドミトリーを擁護する。状況証拠のみであることから犯行は証明できない、と。ここでも65ページを割いており、イッポリートとは違う観点から事件を明らかにしようとしている。
アメリカの法廷映画にありそうなくだりなのである。
とはいえ、この部の白眉はおそらく第11編「兄イワン」になるだろう。しかし先に述べたとおり、いろいろな登場人物と素材が大量にぶち込まれており、一度読んだだけでは理解できないのが本音。ここはもう一度読み直さないとわからない。
いつになることやら。
レヴァイン指揮シカゴ交響楽団の演奏で、マーラーの交響曲4番を聴く。
この時期のRCAのオーケストラ録音は、明瞭さよりも響きの濃厚さを重視しているようだから、この交響曲には合っているように思う。であれば、シカゴではなくてロンドン交響楽団のほうが雰囲気があろうとも思うが、個々の楽器の技量はシカゴが上だと感じる。とくにヴァイオリンを始めとした弦楽器群のキレのよさ、クラリネットの明瞭さ、ホルンの緻密さ、トランペットの繊細さ、など。
2楽章は、妖怪とか妖精関係がわさわさしているような雰囲気が充満していて面白い。いろんな楽器が飛翔する。
3楽章はこの曲の最大の聴きどころと思うが、わりにあっさりしている。22:02。後年にフィラデルフィアとの9番で聴かせたような滔々とした粘りはない。ときにレヴァイン30歳そこそこ。年齢で判断してはいけないが。
要所でヴァイオリンのポルタメントを効かせるところは、指揮者の指示だろう。最後近くの盛り上がりの頂点は、ピッコロが雷のように光る。
終楽章は、ジュディス・ブレゲンが出色。透明な声でもって軽やかに歌い上げており、淡い色気もある。ここは、軽やかな声でなければ。マゼール盤のバトル、バーンスタイン盤のグリストが好みだが、このブレゲンもかなりいい。この幻想曲をキッチリ締めている。
1974年、シカゴでの録音。
休憩。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR