レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏で、マーラーの交響曲9番を聴く。
これは凄い演奏。
先月に聴いたシノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団はかなり面白かったが、それに比肩する。
聴く前は、明るくて軽い、スポーティな演奏かと思っていたが、裏切られた。衝撃的なまでに。
響きそのものは明るいのだが、音の圧力が凄い。肩の力が入りまくっている。
タイムでみるとテンポはかなり遅め。全曲で91分強だから、演奏の歴史上トップクラスの遅さ。けれども、もたれない。というのは、全ての楽器が強く弾いていて、なおかつリズム感がいいからだろう。なかでも、終楽章の遅さが顕著。
今まで聴いたことがあるなかで、遅いと感じた演奏をあげてみる。
テンシュテット/ロンドン(セッション) 25:31
バーンスタイン/ベルリン 26:12
バーンスタイン/コンセルトヘボウ 29:34
カラヤン/ベルリン(ライヴ) 26:49
アバド/ベルリン 25:56
ドラティ/ベルリン・ドイツ 26:46
ジュリーニ/シカゴは1楽章は遅いものの、終楽章はわりと普通なのであることを改めて知った。ワルター、クーベリック、アンチェル、バルビローリは、もちろん速め。
レヴァインは、29:50。これはトップクラス(30分超にはシノーポリ/ドレスデンがあるが未聴)。
音楽に意味を求めてはいけないが、不思議な思惑があるような、遅さなのである。深みを追って遅くしているわけではなく、または音を明瞭に聴かせるための音でもないような感じ。なんなのだろう、これは。
もともとこの曲はヴァイオリンを始めとする弦楽器がおおいに活躍する音楽であるが、いたるところで弦が悲鳴をあげている。両端楽章はもちろん、2楽章でも3楽章でも。どうしてここまで強く弾くのか、と思うほど。響きの強さに録音が追いつかない。ひび割れる箇所がいくつもある。かつて、こんなフィラデルフィア管弦楽団の演奏があったのかな?
悲鳴ばかりじゃない。あるときはこってりとポルタメントを効かせて甘くしている。一瞬、時代を忘れる。もしかするとこれは、これはレヴァインよりも、オーケストラの趣向ではないかと推測する。
録音年は1979年。マーラーの演奏の伝統を知っていて、戦中にヨーロッパからアメリカに移住した奏者が、まだたくさんいる時代ではないか。当然、フィラデルフィアにいないわけはない。
編成はおそらくヴァイオリンの対抗配置によるもののようだ。シノーポリほどはっきりしない。右から、うなりをあげて迫りくる弦は、第2ヴァイオリンだろう。
中間楽章においての、トロンボーンの重低音とティンパニは、想像できる限り最大の音量で楔を打ちつける。溜飲が下がる。このあたりも聴きどころ。
全体を通じて、音響的な奥深さを炸裂させた演奏。これだけやられれば、グウの音も出ない。
1979年、フィラデルフィア、スコティッシュ・ライト・カテドラルでの録音。
休憩。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR