マーラー 交響曲第9,10番 マゼール指揮 ウイーン・フィル昭和残侠伝シリーズ「吼えろ唐獅子」を観る。シリーズ後半だからか、内容はいささかマンネリ感がある上に、最近の高倉を予感させる寡黙ぶりが目立つ。とはいえ、このヒトの絵柄というものは他に代えがたいものがあり、登場するだけで画面がピッと引き立つのだ。共演の池部良はいつも通りに悲しみを湛えた剣客ぶりを見せてくれるし、あとなんといっても鶴田浩二の貫禄がすばらしく、この3人を見るだけでもこの映画の価値はある。
準主役を務めた松方弘樹は、この3人のなかにはいってしまうと、ただのチンピラにみえるのが気の毒だ。
マゼールのマーラーは久しぶり。今までに聴いたものは、フランス国立管との1番と、ウイーン・フィルとの3、4、5、7番、「亡き子を偲ぶ歌」といったところで、どれも楽器をよく鳴らせた演奏という印象がある。
この第9は彼の全集のなかでも割と評判が良かったもので、前から聴いてみたかった。
第1楽章は、冒頭からメリハリがはっきりとついている。演奏によってはとても幽玄な雰囲気を醸し出す部分であるが、マゼールの手にかかると、やたらとプラグマティックだ。ウイーン・フィルの音は滋味あふれたものであるので、そのアンバランス感がなんともいえない。テンポは遅く、感情のこもらないニヒルな演奏でもある。
最初の楽章が遅かったから、2楽章は速く感じる。でもおそらく中くらいのテンポだ。ここでも楽器はよく鳴っている。日本的な表現のひとつとして「ワビ、サビ」というものがあるけれど、この演奏にそういう曖昧な感覚はなく、デジタル的な割り切りの良さがある。
ロンド・ブルレスケもまた同様で、ここにはオーケストラを聴く快感がある。1楽章の無表情さに比べると、だいぶ興に乗ってきたような感じ。ティンパニは皮がやぶれるんじゃないか。最後にアッチェレランドをかけていて、キラリと光るピッコロがとても効果的。見得を切るマゼールの成功例。
そういったケレン味が終楽章でも発揮されるのかと思いきや、ここは正攻法である。この曲ではなんといっても弦が主役であるから、ウイーン・フィルの持ち味が生きやすいわけだが、深いコクのある響きを出すのに成功している。同種の場面として、第3の終楽章があるが、それに匹敵する完成度である。
全体的に、マゼールの指揮からはマーラーに対する思い入れはあまり感じられない。彼のプラグマ的な視点と、ウイーン・フィルのアナログ的弾き方とのギャップが面白い演奏だと思う。
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