ヘミングウェイ(高見浩訳)の「嵐のあとで」を読む。。
舞台はハバナ。ちょっとした傷害事件を起こした男が海を舟でプチ放浪する。すると大変な嵐が。
ようよう岸にたどり着こうとすると、水中にあるものを発見する。それは、大型客船。海の中の窓の奥に、金の髪がゆらゆらとたゆたっている。
これは稼ぎ時だと決めた男は、火事場泥棒に邁進するが・・・・・・。
「ガラスをスパナで叩いた。ガラスを透かして、水中に浮かんでいる女が見えた。その髪は根元で結ばれていて、そこから四方八方にゆらめいていた。片手の手の指には、いくつか指環がはまっている。彼女は舷窓のすぐそばに浮かんでいるのだ」。
これは、カラッとした陽光に晒された幻想小説。引き続き読むのが楽しみ。
ナットのピアノで、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ3番を聴く。
ナットとポリーニで、ベートーヴェンのソナタを聴き比べている。中期の激しさ、後期の奥深さとはまた違って、初期もいい。瑞々しくて元気がいい。しかも、すでにハイドンとは異なる顔を見せる。終楽章は、まるで20番台のソナタみたい。コミカルでいて折り目正しい。
ポリーニはこのあたりのソナタを比較的最近に録音している。余裕のある、ゆったりとしたベートーヴェンになっている。それに対しナットはどちらかと言えば速くて快活。
この3番に関しては、ナットの演奏のほうを気に入った。軽やかで滑舌のよいピアノだ。強いて言えば、グルダのベートーヴェンに似ているだろうか。もったいぶったところのない、端的な演奏。切れ味がよく、音のひとつひとつがコロコロと粒だって聴こえる。音色だけでもじゅうぶんにおいしいけれど、流れもとてもよく、聴いていると時間を忘れてしまう。
1955年11月、パリ、Salle Adyarでの録音。
キングズパークの秋。
重版できました。
「ぶらあぼ」4月号に掲載されました!PR