ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番筒井康隆の「最後の喫煙者」を読む。舞台は近未来。禁煙運動がだんだんと広まり、やがて弾圧となって、とうとう最後の喫煙者になった追い詰められた主人公のもがきを描く。
「殉死」した煙草仲間のセリフ。
「わたしたちはあの悲惨な戦中、戦後を体験してきているが、世の中が豊かになればなるほど、法律や規制がふえ、差別がふえ、不自由になっていく。これはなぜですか」
この小説が発表されたのは1987年。今、まさに同じ状況になりつつある。
こうした健康モノに限らず、ファシズムは気づきにくいところに潜んでいるから要注意だ。
ベートーヴェンが最後に書いた四重奏曲は、1826年に完成し、死後の1828年3月に行われている。
自筆の楽譜の終楽章には「そうなければならぬか?」「そうなければならぬ」と書き添えられている。これには諸説あるようだけれど、そのなかでは家政婦と給料についての問答である、との説を取りたい。生活感がにじみ出ているし、それをあえて楽譜にメモるというテキトーさがいいではないか。アノ最後の四重奏曲をかきつつ、金の勘定に頭を悩ませていたなんて、なんだかステキだと思う。
スメタナ四重奏団の演奏は、快活でおおらかさなもの。なにかを突き抜けたような明るさに輝いている。ズスケとかラサールのような、アリの這い出る隙もないような厳格な合奏でもって重厚に迫る演奏も、もちろん素晴らしいけれども、今の気分にはスメタナの適度にゆるくてあたたかい演奏のほうがしっくりくる。
イルジー・ノヴァーク、リュボミール・コステツキー(Vn)
ミラン・シュカンパ(Va)
アントニーン・コホウト(Vc)
1968年10-11月、プラハ、ドモヴィナ・スタジオでの録音。
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